この連載では、「つながる」という言葉を手がかりに、住まいや日々の営みを大切にしている人たちにお話をうかがっていきます。登場するのは、ものづくりに向き合う方や、食に携わる方など、それぞれの道を歩みながら、自分らしい暮らしを育てている人たち。聞き手は、これまで暮らしに関する雑誌や本を多数手がけてきた編集者・小林孝延さんです。
自分の住まいと、誰かとのつながり。自然とのつながり。家族とのつながり。小さな工夫やまなざしから見えてくる、豊かさのヒントをお届けします。
待つことすら楽しみになる、世にも珍しい家具屋さん
節も割れもそのまんま生かした無垢の木材と、アイアンやレザーを組み合わせた椅子やテーブル。あらかじめ使い込んだかような風合いの張地のソファ。ナチュラルだけど甘くない、アートに寄りすぎない、ザクッとした素材感が持ち味の『TRUCK』のプロダクトは、ひと目見て、あまりのかっこよさに痺れたことを覚えています。およそ30年前のリリース当時、僕と同じように痺れた人は大勢いて、まるでTRUCKという唯一無二のスタイルが、ひとつのジャンルになってしまったかのようでした。
今回はそんな僕が大好きな家具メーカーのオーナー・唐津裕美さんにお話を伺います。
SNSどころか、携帯電話さえ今ほど当たり前ではなかった1997年にTRUCKはオープンしました。
「自分たちで考えてつくって売り、スタイリングして写真も撮って、カタログを自費出版するという、型破りなやり方で始めたのがTRUCKです。トランクにカタログを詰めて書店を回って『こんなんつくってます』いうて置いてもらって。青山ブックセンターとか東京のかっこいい書店にも飛び込みで行きました」当時を振り返ってそう話す唐津さん。卸売をせず支店もつくらない販売スタイルは現在もそのまま。注文してからお迎えするまでの"どれだけ長く待ったか"が喜々として語られる家具屋さんというのも稀なのではないでしょうか。
「卸売をしたり支店を出さないのは、うちの家具を見せる空間を私が直接つくることができなくなるから。ほんまにそれだけ。TRUCKの空気感とか世界観をつくることを人の手にゆだねるなんて考えられへん」
つまりすべてはTRUCKをまっすぐに表現するためのこだわり。この日も店に入るなり、クッションのふくらみをバフバフと整えたり、椅子をちょいっと置きなおしたり、とにかく目ざとく、動物並みの速さで動き回ってました(笑)。
「ディスプレイは100%私がやっていて、スタッフはそれを一生懸命キープしてくれてるんやけど、私が店に行くとすぐ違和感を見つけてなおすから、みんな大変やと思う。といっても、私はインテリアやスタイリングの勉強をしたこともないし、好きか嫌いか直感だけでやっているから、指導も説明もできないんですよ。でも、このフラワーベースは右じゃなくて左向きに置いたほうが落ち着くねん、みたいな感覚は絶対に譲らないし、自分がつくった家具やから、私のディスプレイがいちばんかっこよく見せられる。その確信はがっつりあります」
すごい。唐津さんだけでなく、近頃、こうしてインタビューをして感じるのは、突出した人は、自分の繊細な感覚や感性を明確に定義し、それを安易に譲らないということ。自分の感覚に対してブレがない。「あ、いいな」と思ってもその感覚を深掘りせず、流してしまったり、ブレたりするのが普通です。
「私はこだわりが強すぎるのかも。でも、それしかできない。仕事と暮らしの境がそもそもなくて、自分たちの『好き!』を100%注いだらこうなった。」
小さい森"TRUCK WOODS"で暮らす、つくる
現在のTRUCKは、都会の賑やかさから少しだけ離れた大阪市のはしっこにあります。最初にお店を出した場所から2009年に移転してきました。
広い敷地の中に、工場と店舗、唐津さんのアトリエ棟も。それから店舗の向かいにはカフェ『Bird』。どれもTRUCKらしい佇まいの建物で、エノキやニレといった大ぶりな落葉広葉樹に囲まれ、見上げれば枝葉の向こうに空がすこんと抜けています。
今回のインタビューは、唐津さんの自宅にて。リビングの窓の向こうには、秋の色を深めた木々と空。木製ブラインドがつくるしましまの日差しすらTRUCK に似合う"味"のひとつになっています。TRUCKのシェルフやソファ、飾ってある古いぬいぐるみや古いおもちゃ、古いセミが日差しに包まれてきれいです。ん、セミ?
「セミですね(笑)。庭で拾った。ミンミンゼミ多いからアブラゼミは貴重やねん(笑)」セミを含めた拾いものや好きなものの話は、また後程。
店舗も自宅も、「住宅街にかろうじて残っていた森の中にある古い建物をリノベーションしました」と言われたらすんなり信じてしまう佇まいです。が、実際には、唐津さんたちがデザインして新たに建てたものばかり。新築から14年を経て、近頃ますます年齢不詳になってきました。
「よく言われます。『いい物件がありましたね。もとは公民館か何かですか?』とか。いやいや、更地にゼロから建てたし、なんなら木もぜんぶ植えたし。古いタイルや、昔の団地で使われていたベランダの柵とか、いろんなところに年代物を生かしているから、古い建物だと錯覚するんでしょうね」
そう、森と見まがう敷地の木々すら、もともとそこに生えていたものではありません。更地の土を入れ替えて土壌をよくしたところに、14~15m級の木々を運んで移植するという、造園屋さんもびっくりのプランだったそう。いわば"TRUCK WOODS"ですね。
「木に囲まれて暮らしたかったから、移転先を探していたときは、あちこちの山奥にも行きました。でも、私が住みたい森のイメージとは違うし、第一、山奥では出勤するスタッフが困る(笑)。6年くらい探したところで、ここと出合って即決しました。決め手は三方を学校が囲んでいたことです。大阪市内やのに奇跡的な空抜けだったので。木は1本もないけど、自分たちで植えたらいいか、と」
そうして唐津さんの理想像と造園屋さんのプロ仕事により移植された30本を超える木々は、今では芽吹きの頃からこの地で育ったような顔をして、四季折々の美しさを見せています。今はどんぐりの帽子に落ち葉、いい感じの小枝拾いが楽しい時季です。
子どもの頃からブレない『好き』がつまったアトリエ
唐津さんのアトリエにもお邪魔します。あとから建てたプライベートなアトリエで「仕事から離れて、自分のために何かをつくる場所」。移転してからずっと、TRUCKの仕事に加えて出産や子育て、保護犬と保護猫、地域猫(ピークは20匹以上!)の世話にと走りつづけてきた唐津さんでしたが、2年前にラブラドールのジュニアくん15歳8ヶ月の介護をやりとげ、娘さんが大学生になったのを期に、ようやくアトリエで過ごす時間を持てるようになってきたとか。
いや、たしかにアトリエなのですが、スペースのほとんどは唐津コレクションの収蔵に占められています。拾った自然素材のあれこれ、国内外の蚤の市で求めた古いもの、道端で売っていたチープなもの。唐津さんお手製の植物標本(摘んだ植物を乾燥させてノートに貼り付ける、大学の博物館にあるアレ)も膨大です。そのせいか、まるで外国のアンティークショップか小さな自然史博物館と言ったほうがしっくりくる雰囲気。
「鳥の羽とかまつぼっくりとか、いいもん見つけると『わあ♪』ってすぐ拾うからね。セミもなんか知らんけど好き。錆びた釘とか針金とかもよく拾う。なんやろね、素材感とか色味とかに心惹かれるのかなあ。自分でもわからん」
たいていの人は「これはデザイナーのナニナニ氏がつくったもので」とか「こういう文脈の歴史あるものだから」といった由緒をモノの価値に付加しますが、唐津さんにとって大切なことは「心の声にまっすぐに従う」こと。
「集めた素材をいずれは作品にするかもしれないし、集めるだけ集めて、あ~おもしろかった!で終わるかもしれないけど、好きなものが子どもの頃と恐ろしく変わってないんです。枯れたような茶色っぽさとか、コーデュロイのようなザラッとした素材感とか。何十年持ってんねんみたいな石ころもいっぱいある」
尋常ではないブレなさですね(笑)。マイブームの波とか、ちょっとときめいたけど冷めてしまったものとかは、バシッと断捨離してるんですか?
「いっさい捨てない(笑)。買うにしろ拾うにしろ、断捨離せなあかんものは、そもそも手に入れません。店で買うときは悩まないし、見つけたら速攻で買いますよ、私。マイブームもあるけど、あくまでも『好きの幅の中』でのこと。たとえば、青森ヒバのチップがいい香りだなと思ったら、香りのことが気になりだしてアロマキャンドルを探したりすることはあります。だからといってラグジュアリーな香りや香水に行くことはないですね。私の幅はものすご~く狭い」
多くの人は、世の中の流行や提案、あるいは憧れの人にインスパイアされて、それに近づくインテリアを揃えたものの、しばらく経つと、また新たな提案がよく見えてきて、ちがうテイストを目指す。そうするうちに、なんだかまとまりがなくなって......そんなパターンも多いかと。僕も身に覚えが。
「あ、それはないな。なぜなら順番がちがうから。ミッドセンチュリーとか北欧風とか、あるテイストにしたくてそれっぽいインテリアを揃えることはしたことがなくて、好きなものを集めて置いていったらこうなった、という順番ですね。商品として店で扱う食器とかもそう。自分がめっちゃ好きで使っていたら作家さんとつながってTRUCKに置くことになりました、という順番。売るために探したり、雑誌とかで見て『仕入れさせてください』ということはしないんですよ」
僕が興味を惹かれるプロダクトは(それが家具でもファッションでも)、世の中の匂いに敏い人が仕掛けたものより、こだわりを徹底的に追求する研究者タイプの人が仕事したもの。そういうまっすぐなこだわりがTRUCKには詰まっているから好きなんだ、と再認識しました。
昔の自分に刺激をもらって、まっすぐに
収蔵スペースは直射日光が入りにくいつくりになっていますが、制作エリアのサンルームには北側からの柔らかい光がまわり、可愛らしい屋根裏部屋には、天窓から星明りが入ります。
「ここに来て、集めたものをゴソゴソ整理したり、絵を描いたり、こちょこちょ何かをつくったりする時間が、今、いちばん楽しい。制作しながら寝泊まりするつもりで屋根裏部屋にデイベッドを置いたけど、今はまだ実現できていません。いつもバタバタ、バタバタしてるから、なかなか落ち着いて絵を描く時間がないんやけど、落ち着いたらしたいなっていう思いを持ち続けるためにここを建てたので、これから先の楽しみです」
モノって所有するだけでもエネルギーがいるのに、ちゃんと整理したり、新たな(しかも発注されていない)作品をつくるのが楽しいというのだから、唐津さんはやっぱり圧倒的に熱量が高い人なんだなあと、つくづく感心します。
そして収蔵品の中でも特に大切にしているのが、昔のスケッチブックや旅の記録。二十代の頃から、旅に行く時には必ずノートと画材を持っていき、そのとき見たもの感じたことを描いていた唐津さん。旅から帰るとそこにプリントした写真も貼って、誰に見せるためでもない、自分のためだけのログブックを作っていました。
「狙って撮ってない写真とか、寸詰まりになってる文章とか、こういうのを眺めていると、めちゃめちゃ自由だった頃の感覚を思い出すんです。このとき可愛いのつくってたなあ、この頭の柔らかさや軽やかさは忘れたらあかんなって、すごい刺激になる」
アトリエを持つことで、自分の"根っこ"と再接続する時間と空間を得たのですね。僕もパラパラと拝見すると、TRUCKのカタログづくりに通ずるものを感じて、創作の原点を垣間見たような気分になりました。
長く使うほどに味が出るTRUCKの家具。経年変化を恐れずに、"味"が育つのを楽しめるのは、作り手・唐津さんのまっすぐでブレない思いが、どっしりと込められているから。帰ったらソファにだら~っと身を沈め、テイクアウトしてきた『Bird』のドーナツを食べながら、僕の中にもきっとある「制限のない自由な好き」を深掘りしてみようかな。
取材後記
唐津さん(と、今日は呼ばせてもらいました)とは、ずっと"大好きな家具屋さんとユーザー"という関係でしたが、コロナ禍の自粛ムードが漂う期間にInstagramでやりとりするようになり、今ではニックネームの「ひりんこ」「こばへん」と呼び合う気楽な友人関係に。共通の知人がたくさんいたことや、唐津さんの大阪人気質、同級生という気安さのおかげかも。友人になって、唐津さんのことを知れば知るほど、こだわりの強さの陰に、ものづくりのみならず暮らすことすべてに対して一貫したブレない軸があることがわかり、そこに"すごみ"すら感じるようになりました。だからこそTRUCKの家具が生まれた、そのことを伝えたくてこのインタビューをお願いしたのでした。
そして、今回、あらためて感じたのは、暮らしをつくることと、自分の好きを貫くことは、本来まっすぐにつながっているのだということでした。唐津さんの生み出す家具たちは、どれも理屈より前に、感覚が先に立ち、それは気まぐれではなく、「こうでありたい」というゆるぎない軸から生まれています。だからこそ、TRUCKの家具には時間をかさねて触れていくほどに愛着と存在感が宿っていくのだと腑に落ちました。
そして、唐津さんが語る「境目のない暮らし」のあり方。仕事と日常の間に線を引かず、流れるようにつながっていく、その姿勢は自分がこれまで編集や文章で大切にしたいと思っていた感覚にも非常に近いものがあると感じました。
取材後に上がってきた写真を眺めてみると、そこにあったのは流行りでも受け売りでもない完璧なTRUCKの世界観。「好き」の幅がとても狭いと笑っていた唐津さんだけど、その「好き」が家具にも、建物にも、森のような敷地にも、暮らしの隅々にまで染みわたっていました。
フォトギャラリー
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唐津 裕美
大阪生まれ。大阪芸術大学卒業後デザイン会社勤務を経てイラストレーターに。
1997年家具屋「TRUCK」オープン、2003年雑貨やイラストを制作するアトリエ「シロクマ舎」設立。2009年大阪市旭区に移転。カフェ「Bird」オープン。愛称はひりんこ。
Instagram:@h_i_r_i_n_k_o
企画・インタビュー 小林 孝延
編集者・文筆家。ライフスタイル誌、女性誌の編集長を歴任。暮らしまわりの書籍を多数プロデュース。出版社役員を経て現在は株式会社「イン-ヤン」代表。連載「犬と猫と僕(人間)の徒然なる日常」(福井新聞fu)、「真夜中のパリから、夜明けの東京へ」(集英社よみタイ)ほか。著書に「妻が余命宣告されたとき、僕は保護犬を飼うことにした」(風鳴舎)がある。
Instagram:@takanobu_koba
構成:みやざき しょうこ
写真:馬場 わかな