冬のしつらえ

冬のしつらえ

静けさと温もりが心地よい冬。リビングデザインセンターOZONEでは「くつろぐ・味わう・整える 冬のしつらえ」と題し、‟Japan made”をテーマに、地域に息づく手仕事や工芸をご紹介します。

手仕事。それは、職人たちの挑戦と思いが織りなす、世界に誇る技。手を通して生まれた‟もの”たちは、私たちの暮らしを支え、豊かにしてくれます。素材と向き合い、追求する技術には、つくり手のこころが宿ります。
天然素材にこだわる椅子張り、手の感覚を研ぎ澄ませて仕上げる扉面材の塗装。二つとないタイルの色を生み出す釉薬の調合など――。素材を余すところなく使う知恵や工夫は、つくり手の矜持。このような連綿と受け継がれてきた技術、ものづくりにかける思いを、職人の皆さんが語ってくれました。

※随時、情報を更新します。
※やむを得ない事情により、セミナー等は中止または延期とさせていただく場合がございます。あらかじめご了承ください。

手がつむぐ、ものづくり

椅子張り職人

椅子の張り職人1
椅子の張り職人2
椅子の張り職人3
アームチェアの下張りの作業。下張りは座り心地に大きく影響し、長く使用できるようにするためにも、培った技術を存分に発揮する。

見えない部分に宿る、伝統の技術

私は椅子張り職人になって7年ほど経ちます。椅子の木工職人はよく聞きますが椅子張り職人は工場のある飛騨高山でも少ない仕事であり、貴重な技術だからこそ挑戦したいと思いました。現在、国内でも天然素材を使用した椅子づくりをしているメーカーはほとんどなく、こうしたものづくりは他社では経験できないので、後世にも受け継いでいきたいですね
ウレタンファームが開発される前の椅子のクッション材は、馬の毛、真麻といった天然素材で構成されていました。天然素材は劣化することなく、使い続けるほどおしりの形状になじみ、通気性も良いといった特長があります。下張りの工程では、職人の感覚で天然素材を詰めていくため、1脚の下張りを完成させるには2日掛かるほど大変な作業ですが、そこにこだわりを持っています。

当社は、1950年代の北欧家具をライセンス生産しています。他社が作ったものは、外形は当時と同じであるものの、クッションの中材など見えない部分は違った素材が使われています。当社は現物と同じ仕様、それ以上の技術をもってものづくりができる環境があり、この見えない部分にこそ、その時代の職人の知恵や知識、技術が詰め込まれているもの。お座りになるお客様に次世代まで快適に使用し続けていただくためにも、一つ一つの工程で、納得できる仕事をしていきたいですね。

Kitani 東京ショールーム


金属加工職人

金属加工職人1
金属加工職人2
金属加工職人3
鎖樋の部品となる、ステンレス板の「抜き」作業。この後の工程である「絞り」加工を数回経て、カップ状に成形されていく。

暮らしに息づく仕事をしていきたい

「安全に、ミスなく、確実に」。これは、ものづくりの大前提であり、お客さまに確かな品質の製品を届けるための第一歩です。「鎖樋」は、雨の日にその機能を発揮し、家の外観の一部となるもの。お客さまが何年も使い続けるものだからこそ、つくり手は確実な仕事を積み重ねなければなりません。
例えば、「抜き」は、すべての加工の土台となる非常に重要な工程であり、いかに無駄なく、正確に材料を切り出すかが、後の工程のスムーズさ、最終的な製品の品質を左右します。材料の微妙な違いを感じ取り、常に同じ質を保ち続けるためには、私が20年にわたって培ってきた感覚と、集中力が不可欠。効率的な作業を追求しつつ、材料を無駄なく使い切ることが、ものづくりにおける基本的な姿勢だと考えています

企画・製造から販売まで一貫して行っている当社は、製造現場にいてもお客さまの声が届けられやすく、「もっと改善しよう」という意欲が皆に芽生えます。そうした社風が、品質を向上させています。自分の手を通して生まれた製品が、お客さまの暮らしに息づいている。その実感が、この仕事の大きなやりがいになっています。

瀬尾製作所展示室 SEO TOKYO SHOWROOM


椅子の研磨職人

椅子の研磨職人1
椅子の研磨職人2
椅子の研磨職人3
椅子の背もたれに当たる部品「笠木」の研磨。刃物で削った後の部品は面が尖っているため、研磨の工程で手触りを良くする。

最良のアプローチで、最良の商品を作り上げる

木が大好きで、入社以来さまざまな職場を経験し、あらゆる材料と向き合ってきました。木にはいろいろな木目や含水率(木に含まれる水分量)、硬さがあり、季節によっても違ってきます。一つとして同じものはなく、扱い方も変わるので、30年以上にわたる経験を生かして、最善のアプローチで最良の商品を作り上げています。いまだに四苦八苦し、失敗を繰り返しながら仕事をしていますが、そんな奥深さが楽しく、やりがいになっています。
「笠木」の研磨では、お客さまが思わず商品をなでたくなるような、なめらかで心地よい手触りになるように、心を込めて作業しています。家具は毎日使うものだからこそ、心地よさや安全性は大切にしなければなりません。一人でも多くのお客さまに、木の家具の良さを知っていただけるように、細部にもこだわって使う人の立場に立ったものづくりを心掛けています。

時代の変化に対応できるように、新しいこと、初めてのことにも積極的にトライしていきたいですね。お客さまを一番に考えることはそのままに、小さな挑戦や改善をより多く行い、「変わっているけど、変わっていない」会社であり続けたい。これからも、自信を持って商品を提供していくため、技術を余すことなく家具づくりにつぎ込んでいきます。

浜本工芸 東京ショールーム


釉薬調合の職人

釉薬調合の職人1
釉薬調合の職人2
釉薬調合の職人3
顔料やスプレーガンでの吹き方やグラム数、比重、そして‟ムラ“の出し方一つでもタイルの印象が大きく変わるため、見本と誤差が出ないように丁寧に仕上げる。

仕事に誠実に向き合い、まっすぐ積み上げていく

釉薬に携わって10年目になります。入社したのは、ほんのわずかな色の違いにもこだわる先輩職人の姿に感銘を受けたから。その背中を追いながら、日々理想の色を求めて試行錯誤を重ねています。私たちには、釉薬の調合や焼き上がりのわずかな変化を見極める、繊細な感覚が求められます。同じ色を二度と作れない難しさがあるからこそ、面白さも感じますね。タイルは長い年月を経ても、その場所に残り続けるもの。だからこそ、確かな品質が問われます。一枚一枚に思いを込めて、お客さまがご自身の建物などを見るたびに「このタイルを張ってよかった」と思っていただける製品を作りたいです。

「一筋に、直向きに」。当社が掲げる言葉で、私も強く共感しています。目の前の仕事に誠実に向き合い、まっすぐ積み上げてきたものが、人々の暮らしを支える存在になる。その過程に、ものづくりの誇りを感じています。タイルのように一枚一枚が肩を寄せ合って一つの面を作るように、職人同士が力を合わせてより良いものを生み出していく。仲間と支え合いながら、‟早く、良いものを作る”という思いを胸に、日々の仕事に真摯に向き合っています。

SWANTILE東京ショールーム


一枚板の研磨職人

一枚板の研磨職人1
一枚板の研磨職人2
一枚板の研磨職人3
一枚板の表面をなめらかに仕上げる研磨。小さな虫食い穴や割れの部分は、微細な木粉を使って埋める「粉埋め(こなうめ)」という方法で丹念に補修する。

唯一無二の美しさを、最大限に引き出す

もともと、私は家具の産地として有名な福岡県大川市で「婚礼家具」を作る仕事に携わっていました。同じ家具の分野とはいえ、一枚板の製作過程は全く異なります。無垢の一枚板を原木で扱うため、それぞれの木に合わせた処理方法に慣れるまでが大変でしたね。その木だけが持つ、唯一無二の美しさをお客さまに届けるため、情熱を傾けながら取り組んでいます
何度も磨きを重ねて表面をなめらかにする一枚板の研磨は、けがにつながる恐れのある硬い樹皮部分を削り落とす、割れた部分を埋めるなど、細かな処理が数多く必要になります。数百年とかけて成長した木の丸太から作られる一枚板は、木目はもちろん、いびつな木の形など個性的な魅力があるので、その美しさを最大限に引き出そうとすると、終わりが見えなくなることも。

「割れ」「虫食い」や、樹皮に傷が付いて皮が材中に巻き込まれた「入り皮」など、状態の良くない原木もあります。そうした数ある条件の下でも、品質を一定に保つために美しく仕上げるのが私たちの腕の見せどころです。

関家具 ATELIER MOKUBA 新宿ギャラリー


家具の塗装職人

家具の塗装職人1
家具の塗装職人2
家具の塗装職人3
壁面収納における扉面材の塗装。時流にあわせ、突板塗装やマット塗装、鏡面仕上げなど、質感にこだわった仕上がりをお客さまに提案する。

手の感覚を研ぎ澄ませ、仕上げる塗装

私はもともと、カスタムカーやバイクのペイントに興味があり、職人の道に足を踏み入れました。家具の生産工程の中でも、塗装の工程は、粉塵やほこりが侵入しないように制御されたクリーンルームで作業を行います。生地の状態から上塗りまで、手(腕)の感覚を研ぎ澄ませて仕上げていきます。メンテナンスの際に同じ色をお客さまに提案できるように、配合を保存しておくことも大切な作業の一つです。
商品は納品されてからはお客さまのご自宅で毎日使われます。長い年月を一緒に暮らしていくものですので、暮らしに溶け込み、日差しや照明が面材を照らす時など、ふとした瞬間に「良い質感だな」と感じていただけように心を込めて塗装しています

明治10年の創業以来、西洋近代建築の黎明期や高度経済成長期など、当社はさまざまな時代を経る中で、マーケットの変化をいち早くとらえ、商品を提供してきました。そうした、常に新しいものを取り入れる社風やさまざまな挑戦を通して、お客さまの暮らしをさらに豊かなものにしたいという姿勢には、強く共感しています。これからもすべての工程において、私たち職人の思いをつむいでいきたいですね。

ARUNAi 東京ショールーム


木工技術師

木工技術師1
木工技術師2
木工技術師3
伐採された桃の木を利活用するために生まれた「桃の木ドアレバー」の材料を選別。木に寄り添い、最良の材料を選んで製品にする。

‟本物”が持つ価値を、育てていく

この仕事は、自然と一心同体です。大切な資源である木、自然からいただいた命を無駄にしないよう、‟木は生きている、そしてこの先も生き続ける”という意識の下で日々製造しています。私はこの道40年になりますが、この業界の変化を肌で感じつつこれまでに培った技術を次の世代に伝えています。数十年前に習得した技術が令和の時代にも生かされているのは、弟子である私の娘を含め、若い人たちと一緒に仕事ができているからかもしれません

現代の暮らしは、家も家具も食器も、木に代わる安くて扱いやすい素材にあふれていますが、「桃の木ドアレバー」のように新しい木製品の需要が生まれているのも事実。木を余すところなく使う方法を考え、新たな取り組みに挑戦していると、時代は去るだけのものではなく、必ず新たな形で戻ってくることに気付かされます。木製品は消費するものではなく、育てるもの。この昔から当たり前にあったはずの考え方に、もう一度光を当てるものづくりを続けられることに、幸せを感じています。

ムラコシ精工 新宿ショールーム


つくり手の「手」展

つくり手の「手」展 ~その手が語るストーリー~

素材の声を聴き、形を与える情熱あふれる「手」。長い年月をかけて刻まれたシワや傷さえもが美しいベテランの「手」。これからの日本のものづくりを支える若い「手」。本展示では職人たちの写真や作業中の映像に加え、普段はあまり見ることのできない制作途中のプロセス品をご覧いただけます。

会期:2025年12月11日(木)~2026年2月3日(火)

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Japan madeの魅力に触れる

日本の伝統工芸に触れる、ワークショップやトークイベントを開催します。

職人と作る棕櫚(しゅろ)の道具

ワークショップ

職人と作る棕櫚(しゅろ)の道具
2026年1月10日(土)

お椀の拭き漆体験

ワークショップ

お椀の拭き漆体験
2026年1月18日(日)

情報登録日:2025年12月09日