つくる手と使う手をつなげる「暮らすモノ」のストーリー
越前漆器・漆琳堂

暮らしのモノをつくる人たちのことを、もっと知りたくて。
伝統を守りながら現代の暮らしに寄り添うものづくりを続ける2組のつくり手を、OZONE編集スタッフMが訪ねました。
今回は、福井県鯖江市で越前漆器を手掛ける漆琳堂(しつりんどう)編をお届けします。

深い霧に包まれた鯖江市河和田地区の朝。湿度の高い気候は漆器づくりに最適という。
深い霧に包まれた鯖江市河和田地区の朝。湿度の高い気候は漆器づくりに最適という。
漆琳堂の八代目当主、内田徹さん。会社の代表で、越前漆器の伝統工芸士でもある。
漆琳堂の八代目当主、内田徹さん。会社の代表で、越前漆器の伝統工芸士でもある。

漆器とは、ウルシの木から採取される樹液を精製し、塗料として器に塗った工芸品です。福井県鯖江市の河和田(かわだ)地区では、約1500年前、古墳時代から漆器をつくり続けているといいます。その伝統を受け継ぐ職人で、漆器のプロデューサーでもある漆琳堂の八代目当主、内田徹(とおる)さんを訪ねました。

飲食店の漆器の8割がメイド・イン河和田

漆を塗る刷毛。塗る器の大きさや曲面の角度など、用途ごとに最適な幅がある。
漆を塗る刷毛。塗る器の大きさや曲面の角度など、用途ごとに最適な幅がある。
塗っては次へ、塗っては次へ。刷毛目を残さないように1点ずつ丁寧に仕上げていく。
塗っては次へ、塗っては次へ。刷毛目を残さないように1点ずつ丁寧に仕上げていく。

編集M こちらに来るまでに「漆」の看板をたくさん見ました。なぜ河和田地区は漆器づくりが盛んになったのですか?

内田 この地域は山に囲まれ、川が流れているので、湿度が高く、雨や雪が多い気候です。晴れていても、地面の温度よりも気温が低いと霧が出ます。今朝も霧で視界が真っ白でしたが、あれはいつものこと。漆は湿度が高いと固まる性質をもっていて、山と川があり、材料になる木がある河和田の風土が漆器を育てたのだと思います。

もともとはウルシの樹液を採取する漆かきの職人が多い地域でした。田植えが済んで稲刈りまでの間はちょうどウルシが樹液を出す時期にあたり、河和田から東北などに行って漆かきをしていたようです。河和田の田畑は広くないので、出稼ぎで生活を支えていたのでしょう。 漆器づくりの発展は、山を越えたところに戦国大名、朝倉氏の拠点、一乗谷があったことに関係があるといわれます。最盛期の朝倉氏は一乗谷に足利将軍を迎えるほどの勢力がありました。河和田は税として漆器を納めていたようです。

漆器は仏教ともつながっています。曹洞宗の永平寺の僧は、6つの器が1組となっている「応量器」という漆器を日常で使います。また、越前では浄土真宗が盛んで、親鸞聖人の命日に報恩講という行事をします。その行事で使う「八重椀」という食器は、1人分が蓋つきの器4組なので、20人分で80組、30人分で120組に。大量の注文に対応できるよう分業が発達したことが、越前漆器という産業の礎になっているのだろうと思います。

明治時代、先人たちは河和田の漆器を東京や大阪の飲食店や旅館に売り込みに行きました。分業体制が整っていて量が多くても納期に合わせられることから、全国から注文を受けるようになり、今も国内の業務用漆器は、80%が河和田でつくられています。
量を多くつくれるといっても、機械での<大量生産>ではないので、僕らは<中量生産>といっています。

天然の漆は使うほどに美しくなる

現代的なデザインのRIN&CO.シリーズ。天然漆なのに食洗機可の耐久性も魅力。
現代的なデザインのRIN&CO.シリーズ。天然漆なのに食洗機可の耐久性も魅力。
スタッフが約2年間毎日ヨーグルトやカフェオレに使用したカップ(左)と新品(右)。ツヤの違いに注目を。
スタッフが約2年間毎日ヨーグルトやカフェオレに使用したカップ(左)と新品(右)。ツヤの違いに注目を。

編集M 漆琳堂ではカラフルな漆器や、食洗機OKの漆器もつくられていますが、どれも天然の漆を使用しているとのこと。天然の漆とウレタン塗料ではどう違いますか?

内田 ウレタン塗料も日々進化していて、すごいです。けれどもウレタンは塗った日がピークで、そこから劣化が始まります。化学塗料なので使うほどに擦り減って、ツヤがなくなっていく。反対に、天然の漆は使われ続けることで漆の粒子が磨かれ、より光沢が増していきます。そこが一番の違いですね。
これ、うちのスタッフが約2年使っていた「RIN&CO.」のカップです。新品と並べると、どうですか?

編集M わぁ、使ったもののほうがツヤツヤしていますね! 思った以上に差があります!

内田 そうでしょう? 僕らは商品として完成品を販売していますが、お客さまに使っていただくことによって本当の完成形になる。それが天然の漆の良さだと思います。

編集M でも、天然の漆器は扱いが難しそうで......。

内田 みなさんが思うより漆は強いですよ。金属のたわしではさすがに傷がつきますが、スポンジと洗剤で洗えば問題ありません。
1時間くらい水につけっぱなしでも大丈夫です。
ただし、漆は高温に弱く、食洗機が使えませんでした。そこを克服しようと、福井県・福井大学と高温に強い「越前硬漆」を開発したところ、いろんな人に喜んでいただけました。

使い方も自由です。でも、お椀に高台があるとご飯やお味噌汁用の器に見えてしまうので、「RIN&CO.」というシリーズでは高台をなくしました。今の食事は多様化しているので、和食だけでなく、洋食や中華にも使えるようにしています。
社員が自宅で使っている器を持ち寄り、感想を話し合う「持ち寄り会」で使い方を聞いたところ、思った以上にそれぞれの生活に合わせた使い方がありました。カップも、汁物以外に、コーンフレークに牛乳をかけていたり、カフェオレを飲んでいたり。

編集M 自分らしく使っていくうちにより美しくなるなんて、とても素敵ですね。

内田 陶磁器やガラスのように割れず、長持ちするのもいいところだと思います。もし塗膜が剥げても、塗り直しできるのも漆の特徴です。
自社製品以外の修理を受け付けないメーカーもあると思いますが、うちはどこのものでも受け付けます。
実は河和田地区では、飲食店との取引ではまず修理の注文を受け、信用を得るというのが伝統的な営業方法でした。修理を依頼される器は、ひとつひとつ状態が違うので、経験がないとできない面倒な仕事なんです。今も河和田の修理の得意な業者のところには、全国の飲食店から漆器が送られてきます。

編集M 漆そのものの力と職人の腕があってこそ、長く使い続けられるのですね。

漆を愛する若者を採用し、社内一貫生産に

木地師のKさん。木地師の採用によりデザインの幅が広がり、小ロット生産が可能に。
木地師のCさん。木地師の採用によりデザインの幅が広がり、小ロット生産が可能に。
京都の芸大で漆芸を学んだ塗師のSさんは、カラフルな漆器にひかれて漆琳堂へ。
京都の芸大で漆芸を学んだ塗師のSさんは、カラフルな漆器にひかれて漆琳堂へ。
塗師のYさんは京都の芸大で漆芸を6年間学んで就職。営業や商品開発にも意欲的。
塗師のYさんは京都の芸大で漆芸を6年間学んで就職。営業や商品開発にも意欲的。

編集M 内田さん自身も職人ですよね。30代半ばで伝統工芸士※1として認定されたのは県内最年少だったそうですね。

※1.経済産業大臣指定の伝統的工芸品の伝統的・技術をもつ人の称号。(一財)伝統的工芸品産業振興会が認定。

内田 越前漆器では漆を塗る職人「塗師(ぬし)」が問屋を兼ねています。そういう家では跡継ぎは別の問屋に修業に行くことが一般的です。僕もその予定でしたが、ある業者さんから「家で修業するほうがいい」と言われ、大学卒業後すぐに父と祖父の下で塗りの修業を始めました。つきっきりで教えてもらっていたので、「早く上達しなくては」という気持ちが強かったです。

編集M 技術が親から子に受け継がれているんですね。

内田 かつてはそれが一般的でした。でも、現在はそうではありません。河和田に漆の仕事をしている家は、研ぎだけ、塗りだけの家も含めて約200軒ありますが、後継者がいるのは10軒に1軒くらいです。
今はまだ70代、80代が活躍していて、90代で第一線の職人もいます。でも、その人たちに頼っているだけでは今後が危ない。外部の職人がどっと減ることを考え、うちでは内製化を進めています。2024年には木地場を整備し、蒔絵などの加飾以外は、木地から塗りまでの全工程を一貫して社内でできるようになりました。

現在社員は16人。僕と家族以外は20代、30代です。漆芸の学生は就職先が少ないので、1人の枠に20人の応募があったり、人材募集をしていないのに「働きたい」と電話してきたりも。プロとしていろんな仕事ができるように、木地以外はローテーションです。従来の分業とは違いますね。
河和田地区は人口自体も減っているので、漆をやりたい若い人たちに移住してきてもらえたら理想的。そのためにも越前漆器の需要が増えるよう、がんばりたいです。

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内田さんの父、清治さん(79歳)も現役の職人。この手で塗りの技術を若者に伝えている。

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下地、中塗り、上塗りと、塗り重ねる前に「研ぎ」を行う。均一な研ぎで漆が美しく重なる。

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椀の上塗りを内側、外側とも1回の塗りでくまなく仕上げる「真塗り」。緊張感あふれる作業だ。

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「真塗り」の後、木地の空気などでできる「フシ」と呼ばれる小さなツブを丁寧に取り除く。

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漆は湿度が高いほうが固まるので、乾燥のための「漆風呂」の湿度は60~70%もある。

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椀を支える「つく棒」には、温めると接着剤となり、衝撃で外れる樹脂がついている。

工房を訪れれば、漆との出会いが深くなる

「漆は意外と重いですよ」と言われ容器を持ってみると、予想の1.5倍の重さでズシリ。
「漆は意外と重いですよ」と言われ容器を持ってみると、予想の1.5倍の重さでズシリ。
漆の刷毛は、鉛筆のように木の中に人毛が入っていて、毛が摩耗したら下を削り出すそう。
漆の刷毛は、鉛筆のように木の中に人毛が入っていて、毛が摩耗したら下を削り出すそう。
個別注文では仕上げ方法も指定できる。こちらのサンプルは和紙のような感触が新鮮。
個別注文では仕上げ方法も指定できる。こちらのサンプルは和紙のような感触が新鮮。

編集M オーダーメイドで食器以外のものもつくっているそうですが、建築に関連するものも?

内田 オブジェに漆を塗ってほしいとか、ユニークな依頼がときどきあります。この前はチョコレート工房から「食品なので天然塗料を使いたい」と言われ、ショップのカウンターを塗りました。
異なるジャンルの方たちは、この業界とは「あたりまえ」の感覚が違います。とくに内装や建材の場合は、僕らの「あたりまえ」は通用しないので、コミュニケーションが大事ですね。漆の性質から説明しています。

編集M より多くの人に漆の魅力を知ってもらうために、今後やってきたいことはありますか?

内田 産業観光ですね。これまで都会の人に越前漆器を知ってもらおうと、全国のいろんなイベントに出展したりしてきましたが、言葉で一生懸命説明しても、商品を見てもらうだけでは、伝わるものが限られてしまいます。でも、ここまで足を運んでもらい、河和田の湿度の高い空気を感じたり、職人が一生懸命に作業している様子を見てもらうと、思いが伝わって、「使ってみたい」と感じてくださる。
うちは事前に連絡をいただければ見学も可能ですので、ぜひ気軽に遊びに来てください。

編集Mのつぶやき

RIN&CO.の器にちょこんと乗った上出長右衛門窯の招き猫。漆の保管に九谷焼の器を使用しているそうで、意外な繋がりに出会う。
RIN&CO.の器にちょこんと乗った上出長右衛門窯の招き猫。漆の保管に九谷焼の器を使用しているそうで、意外な繋がりに出会う。
「漆風呂」の順番待ちをしているお椀たちの姿がなんとも可愛らしい。
「漆風呂」の順番待ちをしているお椀たちの姿がなんとも可愛らしい。
何本もの鉋(かんな)を使いわける木地師さんの目の前には木くずの山が。
何本もの鉋(かんな)を使いわける木地師さんの目の前には木くずの山が。
漆琳堂

漆琳堂
直営ショップ
福井県鯖江市西袋町701
TEL:0778-65-0630
10:00~17:00(不定休)

公式HP:漆琳堂 オンラインストア

内田 徹(漆琳堂八代目当主)

内田 徹(漆琳堂八代目当主)
1976年福井県生まれ。 大学卒業後に家業である漆琳堂に入社。10年余り祖父・父から漆器製造の下地・塗りを習い、 2013年産地最年少で越前漆器伝統工芸士に認定される。 2019年漆琳堂代表に就任。

文:長野 伸江
写真:池田 ひらく

暮らすモノと選ぶモノ展

暮らすモノと選ぶモノ展

バイヤーのmethod代表・山田遊氏が、「自宅で愛用するモノ」と「バイヤー目線で高く評価するモノ」を、「くつろぐ・味わう・整える」の視点でセレクトしました。伝統を受け継ぎつつ、現代の暮らしに馴染むかたちに姿を変えてきた品々が一堂に並びます。目で味わう洗練された形はもちろん、手に取るからこそ分かる質感や丁寧さ。そうしたJapan madeの魅力を堪能できる展示です。

会期:2026年1月4日(日)〜3月24日(火)

詳細はこちら

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