リビングデザインセンターOZONE 3Fの【OZONEカタログライブラリー】では、館内ショールームおよびカタログ登録企業のサステナブルな取組みや製品について取り上げ、それを使用することがどのような支援につながるかをご紹介する企画展<-住まいのSDGs- これからのものづくりとエシカルな選択>(会期:2022年09月01日(木)~2022年12月20日(火))を開催中です。
前編では(株)カクイチ シリカライム事業部 本山鉄朗さんにお話を伺いましたが、後編では、杉の赤身材(心材)を1回塗りで無垢の白太材(辺材)のように見せる塗料「見守り専科 杉の赤身けし」を開発した(株)シオン 藤田悠さんに商品開発の経緯や製品の特長を伺い、最後に、両社から今後の挑戦などを語っていただきました。

自然素材を用いた高機能建材を目指す ~カタログライブラリー展示連動 (株)カクイチ シリカライム事業部×(株)シオン対談【前編】

――本当の国産自然塗料を模索する日々

―株式会社シオン 取締役 藤田悠さんに会社の成り立ちと「木守り専科 杉の赤身けし」の概要についてお尋ねします。

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株式会社シオン 取締役
藤田悠さん

藤田弊社は設立20年の若い会社ですが、そもそものきっかけは創業者が自然に囲まれた暮らしにあこがれて、東京からIターンで岩手に移住してきたことから始まっています。新たな商品を模索する中で、当たり前のように化学製品が入っている当時の塗料業界のあり方に疑問を感じていたので、それならば国産の本物の自然塗料を作ってみよう……と、長い開発の歴史が始まりました。

―自然塗料の原料として、どのようなものに着目されたのでしょうか?

藤田膠(にかわ)のみを使用した接着剤、米糠を使った塗料など、本当に自然素材100%の製品を作ったんですが、さすがに使い勝手が悪く、あまり売れませんでした。その頃に私も入社し、使い勝手の良さと自然素材の両立を目指して開発を続けて、亜麻仁油、天然鉱物由来の顔料など、原材料の安全性にこだわった「U-OIL」という製品を2012年に発売しました。乾燥性や着色性などの使い勝手を確保しながら、低臭性や耐候性もあり、また、ウレタンのような造膜型塗料ではなく、木の呼吸を妨げずに調湿性も残すことができる浸透型の塗料としました。この「U-OIL」の次の展開として考案したのが「木守り専科」シリーズになるんですが、その誕生は2020年東京オリンピック・パラリンピックがきっかけとなりました。

―2020年東京大会が、どのようなきっかけとなったのでしょうか?

藤田新しい国立競技場は、当初の案では客席のすべてを木製の椅子にする予定で、その当時、弊社は「U-OIL」を提案していました。しかしその時期に、明治神宮外苑で開催されていたデザイン展で、木製の展示品が火災を起こす事故が起きてしまいます。それに胸を痛め、「木材を燃えにくくする塗料」を思い立ち、10万席に及ぶ国立競技場の木製椅子を燃えにくくし、かつ、8年間色褪せない塗料を開発するという、次なる目標が定まりました。残念ながら国立競技場は木製椅子の採用を見送りましたが、私たちの手元には新製品「木守り専科FIRE Protect」(防炎木部塗料)と「木守り専科WEATHER Protect」(高耐候木部塗料)が残ったわけです。ラグビーワールドカップ2019の岩手県会場となった釜石鵜住居復興スタジアムでは、2017年に釜石市で発生した山火事で焼けた杉の木を再生利用したベンチが採用されているんですが、その塗装には弊社のこれらの製品が使われています。

次にやってきた課題はご存知の通り、コロナ禍です。抗菌・抗ウイルスの塗料は既にありましたが、表面をコーティングしてしまう造膜型塗料ばかりでした。そこで私たちは、木の呼吸を妨げない浸透型の抗ウイルス塗料を開発しました。それが3つ目の商品「木守り専科VIRUS Protect」(抗ウイルス浸透型木部塗料)です。この塗料ならば、これまでオイルステインなどの浸透性塗料を使っていた木材や家具であれば、そのまま上から塗って抗ウイルス効果を付加することができるわけです。この製品には株式会社カクイチさんにもご協力いただき、抗菌効果を持つシリカライムと同じ石灰の成分を配合しています。

――「木守り専科 杉の赤身けし」のねらい

―カクイチさんとシオンさんは既にコラボレートしていたんですね。それでは今回の企画展<-住まいのSDGs- これからのものづくりとエシカルな選択>に出展された商品「木守り専科 杉の赤身けし」についてもお聞かせください。

藤田「木守り」と冠しているとおり、「木守り専科」シリーズの根幹には森林や木材を巡る諸問題の解決に近づくような商品を作っていきたいという思いがあります。そういう意味では、4つ目の商品「木守り専科 杉の赤身けし」は、もっともその目的に直結する発想で作られた商品と言えるかもしれません。日本産の杉材の七割が赤身材(心材)なんですが、カビにも虫にも強く、硬く、腐りにくい利点がある一方、文字通り見た目が赤く、仕上材としては敬遠され、目につかない構造材にしか使われない傾向にあります。しかも色が入りにくく、塗装も難しい部位でした。この赤身材を白太材(辺材)と変わらない見た目にする塗料があれば、国内に潤沢にある杉材をもっと有効に使えるのではないか…… こうした発想の基に開発したのが、「木守り専科 杉の赤身けし」(赤身材用木部塗料)になります。これまでも似た商品はあるにはありましたが、ほとんどが木から色を抜く、漂白・脱色のアプローチでした。これは木質を痛めてしまう可能性が高く、なにより化学的な薬剤を使用するものでした。この「杉の赤身けし」は、弊社製品共通の考え方である「自然塗料」の大前提をもちろん維持しながら、赤身材を白太材のように見せることができるほか、屋外での耐候性も高まり、さらに経年による杉の灰色化(シルバーグレイ化)も目立ちにくくする効果があります。
今年の夏のリリース直後から、特に赤身部分が太く濃い西日本からの問い合わせが多く寄せられています。これまでの弊社の商品は、例えば「U-OIL」は住宅や家具メーカー、これまでの3つの「木守り専科」は設計事務所や工務店がメインのターゲットでしたが、「杉の赤身けし」では製材所や木材メーカーからの問い合わせが増えていて、弊社としてもターゲットがグッと広がった印象ですね。

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企画展「木守り専科 杉の赤身けし」展示例

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施工事例

―今回の企画展<-住まいのSDGs- これからのものづくりとエシカルな選択>に、数ある商品から「木守り専科 杉の赤身けし」を出展された意図についても、あらためてお聞かせください。

藤田シオンの商品は「自然塗料」という大前提の基に製造してきましたし、すべて受注生産にして在庫を持たず、古くなった商品を廃棄することもありません。創業時から従業員・施工業者・住まう方々すべての健康にも、地球環境にも負荷を与えないことを心がけていました。SDGsという言葉がクローズアップされてきたとき、これは弊社がもともと持っていた考え方とマッチすると思い、いち早くSDGs経営を掲げることにしました。現在では、「一般社団法人 いわてSDGs経営研究会」を立ち上げ、地元企業へSDGs経営の視点と考え方の拡大にも努めています。都市部と違って、地方はSDGsの考え方の浸透自体がまだまだ遅れていますので。
弊社は木材に特化した塗料メーカーですので、日本人がもともと持っていた木とともに暮らす生活文化を健全な形で取り戻し、後の世に伝えていきたいという思いがあります。そのための具体的な行動が、この「杉の赤身けし」の製品化だったわけです。一見すると杉材の色あいという小さな問題に過ぎないかもしれませんが、その背後には、材木屋が長年抱えていた「赤身材の有効活用」という課題、戦後に植えた杉が、今、ちょうど良い頃合いとなっている人工林の問題、ウッドショックによる外材調達の難しい状況など、つながっていく課題は大きいはずだと私たちは考えています。ですので、今回の出展に際しては、弊社の考え方を象徴する商品として推奨させていただきました。

――「自然素材」と「高機能」の両立は可能

―ここまで、二社の成り立ちと製品に対する思いをお話しいただきましたが、相互にどのような印象を持たれましたか?

本山商品開発でご協力させていただいた経緯がある話も出ましたが、以前から、やはり根幹は同じ考え方だなと感じていました。弊社にとっても左官材は新しい領域だったわけですが、いざ調べてみると化学的な成分の多さにびっくりしたわけです。左官材と塗料、分野は違いますが、住まいに関わる「塗る」材料としては共通点も多いんです。ケミカルなものをなるべく使わない商品を実現したいという思いは、まったく同じだと思います。

藤田左官材や塗料を含む住宅建材には様々な領域がありますが、残念なことにしっかりと将来を見据えているところは少ないと思っています。最優先すべきなのは、やはり住まう方の健康であって、企業としての利益の追求が、それを上回るようなことはあってはならないと思っています。カクイチさんには、そこだけはブレないでいたいという意識を感じます。もちろん、自信を持って商品をお勧めするためには、製品の性能や品質を最高に保つ努力が必要なわけですが、そうした姿勢にも共感しています。

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―通常、高機能を目指すとそのために化学的な成分が増えてしまうような気がしますが、二社の製品は「引き算」の果てに高機能に行き着く逆説的な開発経緯を辿っていて、どちらも「自然素材」と「高機能」の両立に成功しているように思いますが、いかがでしょうか?

本山正直な商品の姿を突き詰めていくと、自然に両立していくもののような気がします。ただし、その際は徹底的な素材選びが大事です。達成したい機能を引き出すために何を選び、何をすべきかの探求が必要だと思います。

藤田私もそう思います。扱いやすくする化学物質はいくらでもありますからね。私たちの開発作業は、ケミカルな選択肢を除外した上で、とにかくあらゆる自然素材を調べに調べまくってようやくたどり着くところから始まっていくような印象です。

本山シリカライムで仕上げた壁のちょっとしたキズや色ムラなどの補修に、シオンさんの自然塗料を使わせていただくこともあり、いつもお世話になっています。やはり同じ方向を向いている製品なので相性が良いんです。

藤田今の時代、健康に配慮した住まいづくりをしたいエンドユーザーは多いはずで、分野は違えど、ターゲット層はほとんど同じのはずなんですよね。ただしエンドユーザーは何を選んでいいのか、誰に頼んでいいのか分からないのが正直なところだと思います。そうした声に応えられるように、いずれは私たちのような自然素材を重視した住宅建材のメーカーや、それを採用している設計会社、工務店などのネットワークを総合的にご紹介できるポータルサイトのようなものを協力して実現したいと考えています。

本山残念ながら弊社の場合、ユーザーが使ってみたいと希望してくださったのに、設計者や工務店に「ウチでは扱えない」と断られてしまった……というお問い合わせが、かなりあるんです。自然素材を使いたいユーザーと、それを活かした設計をしてくれる設計者、自然素材製品の特性を分かった上で施工をする工務店や職人のマッチングは、ユーザーの希望を叶えるためだけでなく、施工の失敗やクレームをゼロに近づけていくための、私たちの理想でもあるわけです。

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「シリカライム」施工風景

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「木守り専科」の他シリーズはカラーバリエーションも豊富。

――「建材」に留まらない領域への挑戦

―それでは最後にあらためて、今後はどのようなことに挑戦していきたいか、それぞれお聞かせください。

本山シリカライムを知ったことによって、自然由来のものを使う意義や効果について考える人が増えていってほしいという思いで仕事をしています。健康開発事業部が扱っているのは壁や天井のための左官材ですが、この事業を壁・天井で終わらせないための次の一手も考えています。弊社は既に多角的に事業を展開していて、ウルトラファインバブル水による農作物の成長促進、収穫増、農薬散布量削減、秀品率向上を目指す農業のアクアソリューション事業など、同じ「水」から始まっている事業も既に稼働していますので、その中でクロスするものから新たな事業の切り口を見出していきたいと思います。

藤田私たちも建材以外の分野にどんどん挑戦し、自然塗料をもっと身近なものにしていきたいですね。やはり日本は木と共に生きてきた民族ですので、木を生活の一部に取り入れ、それを自分たちで育てていくことを当たり前の世の中にしていきたいと思っています。最近は親子でのDIY教室等も盛んですが、より大事なのは大人たちにもっと木を知ってもらうことです。そのためのコンテンツの充実につながるような、もっと身近な材での塗料開発も新たに進めています。それが行く行くは山の健全な循環にもつながっていけばと考えています。SDGsの根幹だと思いますが、人の健康や地球の環境を壊すものではなく、持続的に共存できるものをしっかり作り、しっかり使うべきですよね。住まいを作る際にも、体に優しい自然素材や環境に害のない材料を使うのが当たり前の世の中にしていきたい、そのための開発の努力を続けていきたいですね。

―両社のあらたなコラボレーションにも大いに期待しています。


※2022年11月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。

OZONEカタログライブラリー企画展示
「-住まいのSDGs- これからのものづくりとエシカルな選択」

会期:2022年9/1(木)〜12/20(火) 10:30~18:30
企画展示 詳細はこちら

<企画展示出展 カタログライブラリー登録企業>
株式会社カクイチ シリカライム事業部株式会社シオン
エンデバーハウス株式会社東亜コルク株式会社マテックス株式会社

※エンデバーハウス株式会社、東亜コルク株式会社、マテックス株式会社の展示製品の詳細はこちらをご覧ください。
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