リビングデザインセンターOZONE 3Fの【OZONEカタログライブラリー】では、館内ショールームおよびカタログ登録企業のサステナブルな取組みや製品について取り上げ、それを使用することがどのような支援につながるかをご紹介する企画展<-住まいのSDGs- これからのものづくりとエシカルな選択>(会期:2022年09月01日(木)〜2022年12月20日(火))を開催中です。今回は、天然石と水硬性石灰のみを使用する内装左官材「シリカライム」を製造販売している株式会社カクイチ シリカライム事業部 部長 本山鉄朗さんと、仕上材としては敬遠されがちな杉の赤身材(心材)を無垢の白太材(辺材)のように塗装して活用を促進する塗料「木守り専科 杉の赤身けし」を開発した株式会社シオン 取締役 藤田悠さんに、出展参加された企業を代表してお集まりいただきました。それぞれの商品開発についての経緯をお尋ねするとともに、SDGsの諸課題に対する思いなどを語り合っていただくなか、住まいや暮らしの空間に関わる企業として、今、何を大事にするべきなのかが浮かび上がってくる、貴重な対談の場となりました。

自然素材を用いた高機能建材を目指す ~カタログライブラリー展示連動 (株)カクイチ シリカライム事業部×(株)シオン対談【後編】

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リビングデザインセンターOZONE 3F【OZONEカタログライブラリー】
企画展<-住まいのSDGs- これからのものづくりとエシカルな選択>

――有機物を一切使わない左官材「シリカライム」

―まずは株式会社カクイチ シリカライム事業部の本山鉄朗さんに、会社の成り立ちと「シリカライム」の概要についてお尋ねします。

本山株式会社カクイチ は明治19年に長野県で創業した会社で、もともとは金物問屋でした。現在の主力事業は鉄骨を使ったガレージや倉庫、それから土木、工業、農業用から家庭用まで取り揃えた樹種製ホースの製造販売です。そうした中で14年ほど前から始まった新事業がシリカライムになります。その前段として、滋賀県岩間山にある鉱山の地下深層から湧出する超軟水「ナチュラルミネラルウオーター岩深水」の販売を始めているんですが、その水の成り立ちやおいしさを研究するうちに、湧出地周辺の水晶を多く含んだ花崗岩「音羽晶石」の濾過作用の素晴らしさが分かってきました。そしてそれは水だけでなく周囲の空気も浄化することも分かってきたので、住まいづくりへの応用、つまり建材への活用を目指した研究がスタートしました。

―天然水の研究と商品化から派生的に生まれた商品アイディアだったんですね。その研究は最初から左官材の開発を目指したものだったのでしょうか?

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株式会社カクイチ シリカライム事業部
本山鉄朗さん

本山いいえ、当初は「音羽晶石」の水を浄化する機能や温熱効果に着目して、例えば浴槽や岩盤浴などに使う方法などを考えていたんですが、空気を浄化するためにはより多くの量が必要で、すっぽりと包まれるように使うと効果的だということが分かりました。そこで壁と天井を合わせると床の約4倍の面積になることに注目し、石材として敷設するのではなく、広く壁や天井に塗ることのできる左官材に加工する方向へ発想を転換しました。石を粉末にしてペースト状に練り上げるわけですが、問題はその際に混ぜ込む素材です。化学製品を使えば簡単ですが、住む人の健康を考え、それだけは厳しく避けてきました。結果、フランス産の「天然水硬性石灰」という古代からヨーロッパの名建築に使われてきた素材を探し当てました。これはセメントの発明以降、衰退していましたが、今、環境や健康の問題に関心が集まるなか、再び注目されている天然素材です。日本の伝統的な「漆喰(しっくい)」も石灰を使っていますが、日本産の石灰は純度が高すぎて硬化に時間がかかるので、海藻から取った角又(つのまた)という糊、あるいはそれに類する有機物を含む樹脂などを混ぜざるを得ません。有機物を含むということはカビや菌類の原因になってしまうわけです。これを避けるため、音羽晶石と天然水硬性石灰の二つの無機素材だけを使い、他には混ぜ物を一切入れていない製法で商品化に至ったのが左官材「シリカライム」です。

――「左官」という技術を見つめ直すきっかけに

―化学物質の吸収中和や湿度の調整、消臭、抗菌防カビ、ホコリの付着防止、二酸化炭素を吸って硬化し続ける優れた耐久性など、シリカライムの特徴や発揮される効果の数々を眺めていると、とても機能性が高いですね。天然石と石灰だけでこれほどの効果が得られるとは驚きですが……

本山より自然に近い製法と住まう人の健康を考えていくうちに、次第に足し算ではなく引き算のものづくりになっていったわけですが、その結果、これだけの高機能を発揮する製品になるとは、私たちも驚きました。もっとも分かりやすいのは消臭機能でしょうか。ペットを飼っている方には、「お客様を家に呼んでも、ペットを飼っていると気づかれないくらい」だと、大変好評です。また当初、浴槽に使う方法を考えたと言いましたが、弊社が運営する「アンシェントホテル浅間軽井沢」などには、実際に浴室の壁・床・天井を音羽晶石で覆った施工をしている部屋もあります。遠赤外線効果が高く、入浴するととても温まるとお客様にも好評ですが、それ以上にお湯の設定温度が低くて済むという、意外な効果もありました。長野県の温泉施設で同様の施工を請け負った際は、以前は42℃で営業していたものが、改修後はお客様から「お湯が熱くて長く入っていられない」との声があがり、現在では39℃の湯温設定で十分になったと聞いています。予期していなかった効果ですが、これもCO2排出抑制やエネルギーの節約に貢献する結果となりました。

―これだけ効果と利点が多いと、逆になにか弱点があるのではないかと気になってしまいますが……

本山二つの自然素材と水しか使っていませんので、施工にはコツが必要です。近年の左官材はひび割れ防止や塗りやすさのために、どうしても化学物質に頼りがちで、そうした素材に慣れている左官職人にとっては難しい素材と思われてしまうかもしれません。シリカライムが目指しているものやその性質を、職人と一緒に学び、理解し、施工の仕方を工夫していく必要がありました。製品化した当初は、そこにもっとも苦労しましたね。逆に言えば、シリカライムは左官業が本来の持つべき技術や住まいづくりへの考え方を見つめ直す契機になる材料なのかもしれません。実際、今では弊社の考え方に賛同し、積極的に使ってくださる左官職人も増えてきました。シリカライムがそういう役割も果たせれば、と常々考えています。

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左:企画展「シリカライム」展示例
右:施工イメージ

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企画展「シリカライム」展示例

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施工イメージ

――SDGs諸課題への思い

―そうしたご苦労の上に広がりを見せているシリカライムですが、お客様からの評判はいかがでしょうか。

本山ここ数年、お問い合わせが増えています。コロナ禍で家の中の環境に関心を持ったり、ウクライナ問題で輸入建材やエネルギーに意識が向いたり、そうした変化もあったと思いますが、それ以上に、SDGsの諸問題やエシカルな暮らし方への関心が高まっているように感じます。自然由来のもの、長く大切に使い続けられるものなどを求めていろいろと調べているうちに、シリカライムの情報にたどり着いた方が多いようで、3年前から比べると、お問い合わせは10倍近くに増えています。さらに先ほどの話のように、シリカライムに賛同し、積極的に使ってくださる工務店や左官職人が増えてきて、現場で推奨してくださることも多くなっています。採用現場も、これまでは都市部ではマンションのリノベーション、郊外や地方では一軒家が中心でしたが、最近では飲食店などの店舗での採用も拡大しています。

―今回の企画展<-住まいのSDGs- これからのものづくりとエシカルな選択>にシリカライムを出展された意図について、あらためてお聞かせください。

本山省エネや健康はもちろん、石油由来の化学物質を一切使用していないこと、建物の取り壊しや材料が廃棄の状態になったとしても環境に負荷を与えないことなどでも貢献できると考えています。株式会社カクイチでは、このシリカライムに関する事業を建材開発や建設事業などではなく、「健康開発事業」と呼んでいます。水から始まった事業なので、毎日飲むもの、食べるもの、住むところこそ、人間の健康の基本だという考え方に基づいています。シリカライムは壁や天井のための左官材ではありますが、人の生活や健康、そのために大切な環境とは何かを再発見するきっかけになれば、という思いを込めています。

―株式会社カクイチさんは、シリカライムの「健康開発事業」はもちろん、他のすべての事業部も、その活動がSDGsの17の目標(*1)のどれにアプローチするのかを明確に示していらっしゃいますね。

本山主力事業であるガレージの製造販売も、完成・納品して終わるのではなく、その後もオーナーさんとパートナー契約を結んで屋根の上に太陽光発電パネルを設置し、再生可能エネルギーのミニ発電所としてネットワークを広げています。さらにその電力を使った電気自動車のコミュニティバスを自治体と連携して運営し、地方再生に活用してもらうなど、常に次につなげる視点を大事にしています。17目標の明示は、どの課題にどのように貢献できるかを各事業部が自ら考えて表明することが会社全体の方針になっています。こういう目標の基で仕事をしているんだ……と強く意識できますので、社員にとってもやり甲斐や意欲につながっていると思います。それもまた、持続可能な企業活動のためにはとても大事なことだと考えています。
(※文中敬称略)

前編では、内装左官材「シリカライム」を製造販売している株式会社カクイチ シリカライム事業部 部長 本山鉄朗さんにお話を伺いました。株式会社シオン 取締役 藤田悠さんに伺ったお話やそれぞれの製品についての印象や今後の挑戦などについては、後編でご紹介いたします。

後編はこちら

(*1) 2015年9月国連にて採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に基づき掲げられた世界共通の目標
参照:国際連合広報センター「持続可能な開発 2030アジェンダ」


※2022年11月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。

OZONEカタログライブラリー企画展示
「-住まいのSDGs- これからのものづくりとエシカルな選択」

会期:2022年9/1(木)〜12/20(火) 10:30~18:30
企画展示 詳細はこちら

<企画展示出展 カタログライブラリー登録企業>
株式会社カクイチ シリカライム事業部株式会社シオン
エンデバーハウス株式会社東亜コルク株式会社マテックス株式会社

※エンデバーハウス株式会社、東亜コルク株式会社、マテックス株式会社の展示製品の詳細はこちらをご覧ください。
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