これからの住まいを考える際に大切なこと[ vol.2 ]

取材/文/撮影:萩原 健太郎

昨今、「おうち時間」という言葉が注目を集め、「テレワーク」という働き方が取り入れられ、「バンライフ」という旅するように暮らすスタイルが一般に知られるようになるなど、"住む場所"や"暮らすということ"について、改めて考える機会が増えました。

そこで、1958年にデンマークに留学して以来、長年に渡り、北欧の暮らしやデザインについて日本に伝えてきた第一人者である島崎 信(しまざき まこと)先生に、「これからの住まいを考える際に大切なこと」についてうかがいました。
vol.2では、日本と北欧のデザインのルーツや生活サイクル、自身が考える快適な住まいについてお話しいただきました。

vol.1はこちら

島崎 信(Makoto Shimazaki)
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1932年、東京都生まれ。
56年、東京藝術大学卒業後、東横百貨店(現東急百貨店)家具装飾課入社。
58年、JETRO海外デザイン研究員として日本人ではじめてのデンマーク王立芸術アカデミー研究員となり、60年、同建築科修了。
帰国後、国内外でインテリアやプロダクトのデザイン、東急ハンズ、アイデックの企画、立ち上げにかかわるかたわら、武蔵野美術大学工芸工業デザイン科で教鞭を取る。北欧やデザインに関する企画やセミナー、著作などを数多く手がける。
武蔵野美術大学工芸工業デザイン科名誉教授。
北欧建築デザイン協会理事、日本フィンランドデザイン協会理事長、公益財団法人鼓童文化財団特別顧問、有限会社島崎信事務所代表。

島崎信先生は、デンマーク王立芸術アカデミー建築科を修了して帰国した後も、何度もデンマーク、北欧へ渡り、見聞きされたことを講演や著書などを通して、私たちに伝え続けてくれました。そうして日本でも北欧のデザインやライフスタイルが広く知れ渡るようになり、いつしか親和性を抱くようになりました。

― 北欧デザインのルーツは日本

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コペンハーゲンにある「デザインミュージアム・デンマーク(旧工芸博物館)」。

「北欧のインテリアは、日本の家と相性がいい」。そんなふうに感じている方も少なくないかもしれませんね。それにはちゃんと理由があるんです。
北欧はもともと人口も資源も少ない貧乏な国でね。デザインの伝統もなく、生活に必要なものは自分たちで手づくりしてきました。
1873年のウィーン万博は、明治政府がはじめて出展した万博なんだけど、当時欧米ではジャポニスムといわれる日本美術のブームが起こっていて、日本の伝統工芸品が非常に高く評価されていたんですよ。デンマークでは、それらを学び、写をして、昇華させていったわけです。
それから1920年以降、建築家でデザイナーのコーア・クリントらを中心に、デザイン教育を確立させていき、やがてハンス・ウェグナーらが活躍した戦後の北欧デザインの黄金期に結びつくわけです。
つまりね、北欧のデザインのルーツは、日本にあるといえるんです。2015年には、コペンハーゲンのデザインミュージアムで「LEARNING FROM JAPAN」という展覧会が開催されて、大きな反響があったんですよ。

― 20年のサイクルで自分たちの生活を考える

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簡素な空間のなかに際立つ名作椅子「PK22」とペンダントランプ「Enigma」。インテリアやデザインとは無縁の職業の方の自宅だが、この2点だけはどうしても欲しかったとのこと。一般の方でも、インテリアへの関心は非常に高い。

今では逆に、日本の方が北欧から住まい方について学ぶことも増えました。
特にパンデミックを経験して、家での時間が増えたことで、住まい方や暮らし方を見つめ直した方も多いのではないでしょうか。

家を建てるのに考えるべきことは、20年のサイクルで自分たちの生活を考えることです。 たとえば、子どもが生まれて、家を離れて、その後は夫婦でどのように暮らしていくのか、を思い描くことです。

僕の留学時のコペンハーゲンの下宿先は([ vol.1 ]参照)、まず玄関を入ると、ホールと2階への階段があって、2階には子ども用の部屋が2部屋ありました。そして1階には居間や食堂、台所、夫婦の寝室がありました。僕は2階の1部屋を借りていたわけなんだけど、部屋には洗面台もついていました。
つまり、こちらの夫婦はね、子どもたちが家を出て行った後のこともきちんと考えていたんですよ。下宿先として貸し出すことで収入も得られるし、食事を出したりして世話をすることで生き甲斐を得られる人もいるかもしれない。先のことまで考えることが大切なんです。

― 自分の好きを知ることがcozyへの第一歩

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ハンス・J・ウェグナーの「ザ・チェア」に腰かけるデンマーク人男性。多くのデンマーク人はお気に入りの場所(椅子)を持っている。

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適材適所に配される光。日本のように全体を照らすということはなく、フロアランプ、デスクランプ、ペンダントランプなどを活用し、心地よい陰影を生み出す。

下宿生活は快適でしたよ。cozy、つまり居心地の良さのヒントは、「どこにいても自分の世界がつくれること」だと思います。
たとえば、名作椅子というのは必ずしも座り心地がいいわけではないんです。どんな椅子でも自分がいいと思うものを選べばいい。使いこなしていくうちに愛着が生まれてきます。
光にしてもそう。日本では、南向きの家が好まれるけど、デンマークでは、やわらかい光が長く続く夕日が好まれるから西向きの家が多いんです。
だから、どういう光が好きなのか、こだわってみてはいかがでしょうか。家のなかでは、僕は本を読んで過ごすことが多いから、全体をほんわかと明るくして、自由に動かして手元を照らし出せる、そういうランプを重宝します。

「ハレとケ」であれば、ケの部分。日常を大事に、暮らすことにきめ細やかな神経を行き渡らせ、自分の好きを追求してみてください。
自分の好きなもの、雑誌などのスクラップをするのもいいかもしれませんね。そして、自分はこういうのが好き、こういう家をつくりたい、というのを建築家や設計者に伝えてください。住むのはあなたなのだから。

最後に、本好きの先生から、住まいにまつわる4冊の本をおすすめいただきました。今では入手困難なものもありますが、古書店や図書館などでも探して読んでみられてはいかがでしょうか。

  • 『杉のきた道』(中央公論新社/遠山富太郎著)
  • 『新和風のすすめ』(モノ・モノ文庫/秋岡芳夫著)
  • 『近代建築は何を創ったか』(中央公論美術出版/樋口清著)
  • 『椅子の物語』(NHK出版/島崎信著)

2022年5月よりスタート予定!「島崎信×萩原健太郎 クロストーク」

島崎先生と、北欧・デザイン・インテリア・手仕事などの領域の執筆・撮影、講演、プロデュース等を中心に活動中の萩原健太郎さん(ライター/フォトグラファー)によるクロストークを全4回にわたり開催します。
新築やリノベーション、インテリアコーディネートなど、これから家づくりを考える方に向けて、 自分らしい家づくりを進めるための考え方についてお話しする"住まい手が力を蓄える"講座です。どうぞお楽しみに。

 萩原健太郎さんオフィシャルサイト「Flight to Denmark」はこちら

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※2022年3月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。

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