OZONE 6Fの【朝日ウッドテック 東京ショールーム】は、天然木の挽き板・突き板によるフローリング材「Live Natural」シリーズを中心に、様々な⽊質建材を製造・販売しているメーカー:朝日ウッドテック株式会社が運営しています。
靴を脱ぎ、床に直接上がって表面の仕上がりや樹種の魅力を体感できる、広々とした床面を持つ展示空間が特徴的なショールーム。そこに2021年に登場したフローリング材「Live Natural for Dog」は、小型室内犬の「脚の健康」を気遣った滑りにくさの実現と、「Live Natural」シリーズ本来の天然木の風合いの美しさとを両立させた製品として、大きな注目を集めています。その開発に至る道すじについて、朝日ウッドテック株式会社プロモーション推進室の西村公孝さん・山野智子さんにお話を伺いました。

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リビングデザインセンターOZONE 6F【朝日ウッドテック 東京ショールーム】

「銘木の大衆化」という大きな目標

―朝日ウッドテックの創業時の姿とは、どのようなものだったのでしょうか?

西村 当社のルーツとなった銘木商「霜寅商店」が大阪の船場で創業したのは1913年、そして現在の朝日ウッドテック株式会社に直接つながる会社組織:朝日特殊合板株式会社が設立されたのは1952年になります。その時に創立理念として掲げたのが「銘木の大衆化」という言葉でした。通常の建材としての材木とは別に、見た目の美しさや手触りにこだわった、鑑賞的価値のある高級木や希少木を、床柱(とこばしら)や欄間などのここぞという部分に使って楽しむという、日本特有の「銘木」という価値観。これをもっと大衆にも広めていきたい、という思いが強くありました。
当時は、街に絶えず槌音が響いているような戦後の住宅復興期でしたので、その中に少しでも質の良い木を使いたい、それを長い間大切に愛でるような習慣を根付かせていきたいというのが、長く銘木商として活動してきた当社の願いでもあったわけです。

ただし現在とは違い、設立当初は天井材や壁材がメインの製品でした。当時はまだ石膏ボードやクロス、様々な新建材が普及する前でしたし、建築基準法の防火基準もそれほど厳しくなかったので、天井や壁には突き板で化粧した合板を用いるのが普通でした。逆に床はまだまだ畳が中心の時代なので、床材の出番はそれほど多くなかったわけです。それが徐々に逆転していくのが弊社の昭和の事業の基本的な流れになります。

―その昭和の時代に、朝日ウッドテックの社史上、大きな転機となった製品などはあったのでしょうか?

西村 銘木突き板を合板基材(一尺×六尺:約303mm×1818mm)に化粧した1×6フロア「ファンシーフロア」という製品を、業界に先駆けて1962年に当社が初めて発売しました。これにより製造上の加工性や生産性、現場での施工性が大幅に向上したので、この規格をそのまま採用する他社も増え、すぐに床材業界での統一規格として普及していきました。
その他にも、様々な色調やバリエーションを備えた塗装床材「銘木カラーフロア」(1983年)や、床面への衝撃音を吸収するマンション直貼り用床材「遮音ネダレスフロア」(1985年)、木質床材では難しいとされていた床暖房への対応を実現した「ネダレスフロアHOT」(1988年)など、その後の建材業界のスタンダードとなるようなアイディアや技術を弊社から発信し、床材の品質や機能の向上、ひいては、靴を脱いで生活する日本人にとっての、床をめぐる生活スタイルの確立をけん引してきたという自負があります。

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銘木突き板を合板基材に化粧した 1×6 フロア「ファンシーフロア」カタログ表紙(1962年発売)

「Live Natural」シリーズの立ち上げ

―そうした時代を経て、現在の朝日ウッドテックの主力商品とも言える、「Live Natural」シリーズが2002年に誕生しますが、そこにはどのような経緯があったのでしょうか?

西村 本来は家具に使うような世界の銘木を突き板として化粧に使用した床材シリーズになります。
名前にナチュラルと付いているように、以前の「カラーフロア」のような着色塗装はせず、素材としての銘木の力を最大限に引き出すことを目的としました。その背景には、80~90年代と、カラーフロア全盛期が長く続いたため、カラー系の床材がすっかりコモディティ化してしまったという事情がありました。
「Live Natural」では、天然木の本質美を追求し、銘木本来の色調や風合い、さらにはその経年変化なども楽しめるよう考えられています。

―「Live Natural」シリーズを立ち上げた当初の評判や、ユーザーの反応などはいかがでしたでしょうか?

西村 やはりそれまでの商品と比べると価格が高めという点もあり、最初から売れ行き抜群というわけにはいきませんでした。
そこでマーケティングの仕方を変えて、弊社の「杢匠」の仕事をクローズアップして、世界の森から原木を伐り出し、丁寧に吟味しながら商品として加工していくまでの一貫生産の姿、つまり、森からお客様の足元に届くまでの木の物語を語り伝えるような、丁寧で印象に残るようなブランディングを行いました。また、木には本来、「節」や「入り皮」などの様々な表情があるんですが、床材にした場合、これらの模様はどうしても欠点として捉えられがちでした。
それを私たちは、それこそが木の生きた証であると発想を転換し、「キャラクター」という名で、むしろ木の個性としてお客様に勧めるようにしていきました。さらに、実際に家を建てるエンドユーザーの皆様に靴を脱いで床材の質感を体験してもらえるよう、ショールームを充実させていったのもこの頃です。

OZONEの【朝日ウッドテック 東京ショールーム】がスタートした2006年は、まさにその時期でもありました。そうした広報や販売方法のシフトチェンジを図っていくうちに、ビルダーさんやハウスメーカーさんの標準仕様品として徐々に採用されるようになり、ゆっくりと普及していった経緯があります。

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天然木の本質美を追求した突き板化粧フロア「Live Natural」発売当初のカタログ表紙(2002年発売)

「愛犬が滑らない床材」の実現へ

―そして、「Live Natural for Dog」の誕生へとつながっていくわけですが、「Live Natural」シリーズの新たな開発が、「愛犬の健康」という方向に向かったのには、何か理由があったのでしょうか?

山野 ペット市場が徐々に拡大しているという点ももちろんありますが、なにより、ワンちゃんを飼っている開発スタッフ自身が、愛犬の健康と床材の「滑り」の問題を当事者として強く感じていたこと、また、愛犬家の間で、そうした問題意識が広く共有されているのを身近に知っていたことが大きいです。
膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)という小型犬によく見られる疾患があります。足の筋肉を膝関節の中心に固定する膝蓋骨という骨がずれてしまうことで、徐々に歩行が困難になってきてしまう病気です。先天的な要因もありますが、高所からの転落や床の滑りによる転倒、骨折などが原因で発症することがあるので、その予防のためには、床材の滑りにくさが重要になってくるわけです。
私たちの暮らしが畳・じゅうたんから硬いフローリング中心に移行し、かつ、ワンちゃんが外飼いから室内犬中心になってきたのと同時に、ずっと以前から潜在的なニーズはあったということになると思います。それまでにも、愛犬の滑りにくさを謳ったシートフローリングなどの商品は市場にありましたが、やはり私たちは天然木を使って、その機能を実現することにこだわったわけです。

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愛犬にやさしい滑りにくさを備えた天然木フローリング 「Live Natural for Dog」 カタログ表紙(2021年発売)

―「Live Natural」シリーズ本来の天然木の風合いと、愛犬にとっての「滑りにくさ」を両立させるという、新たな開発目標が生まれたわけですね。

山野 そうです。
これがなかなか難しい開発となりました。まずは塗装によって表面をザラザラした触感にして引っ掛かりを作る方向で考えました。愛犬の滑りにくさを謳った他社のシートフローリングなどの多くも、この方向で作られたものでした。
しかし、それでは天然木の風合いが大きく失われてしまうわけです。最終的には、表面の塗装を柔らかい状態に保つ工夫で「滑りにくさ」を実現するに至りました。ワンちゃんが床を踏んだ際に、表面が柔らかく凹むことでグリップ力を得るような仕組みです。ただし、柔らかい塗装にするということは、同時に汚れが付きやすくなることでもあるわけで、「汚れにくさ/汚れの落ちやすさ」という3つ目の要件も解決する必要がでてきました。

ペットとの暮らしを前提とした商品ですので、汚れ落ちの機能を通常商品よりも低くするようなことはできなかったわけです。その解決に行き着くまでに数多くの実験や塗装剤開発を繰り返し、完成までに3年半を要しています。

「Live Natural for Dog」歩行検証動画
朝日ウッドテック社長の愛犬「秀吉(ひできち)」くん協力による、床面の滑りにくさの比較体験動画。

―ショールームで実際に「Live Natural for Dog」の床材を触ってみると、通常の突き板床材の手触りとほとんど変わりなく、「柔らかい塗装」が施されていることが分からない感触になっていることに驚かされます。
しかし、そもそも愛犬にとって最適な「滑りにくさ」とはどういう状態のことなのでしょうか?

山野 床材の滑りにくさの指標として、滑り抵抗係数(C.S.R:Coefficient of Slip Resistance)というものがあります。
バリアフリー新法に基づく設計ガイドライン「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」などに、床の滑り具合の評価指標として採用されています。これは人間生活のための基準ですが、その犬用の数値として「C.S.R・D’」(Coefficient of Slip Resistance・Dog’)という指標があります。この「C.S.R・D’」の値が、独自の目標値をクリアするように開発を行ってきました。

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愛犬にとっての適度な滑りにくさを、「C.S.R・D’」として数値化し、独自の目標値として設定した。

―「Live Natural for Dog」を採用されたユーザーからの反応などはいかがでしょうか?

山野 ユーザー様からの声としては、「安心してボール投げをして遊ぶことができるようになった」、「今までよりも元気に室内を歩き回れるようになった」、「恐々と歩くことがなくなった」などの嬉しい反応をいただいています。

こうした声を他の愛犬家の方にも広く伝えていきたいところですが、こればかりは床の上で愛犬が過ごしている様子を見ないことには実感しにくい面があります。そこで現在、「Live Natural for Dog」をご採用のユーザー様を対象に、「床の上で過ごす愛犬の動画」の募集を行っていて、すでにいくつもの動画を弊社ウェブサイトに掲載させていただいています。

その第二弾の募集をこの11月から1月末までの間、行っているところです。今後も年に二回の募集を続けていきたいと思っています。
今、愛犬のために床をどうしようかお悩みの方にも、その特徴や機能を実感してもらい、本製品を選んでいただけるようなコンテンツにしていきたいと考えています。

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朝日ウッドテック「Live Natural for Dog」専用サイトの「お客様の声&投稿動画」コーナー。
ユーザーの声とともに、愛犬たちの床の上で暮らしの様子が動画として多数掲載されている。
※2024年1月31日まで第二次募集中。

西村 実は家を新築した当初から犬を飼う方は、それほど多くないんです。
実際、新築後はある程度生活が落ち着いてから、あるいは、リフォームのタイミングで滑りにくい床の導入を検討される方のほうが多いんです。ですので、既に施工済みの床の上から新たに貼ることのできるリフォーム対応の、いわゆる「上貼り用」の床材でも「for Dog」仕様のものを用意していて、これもご好評いただいています。

この製品だと、愛犬が主に出入りする部屋だけを選んで施工することも容易ですので、既に愛犬と暮らしている方は、「いつか新築する時が来たら」と思わず、現在の住環境に導入することも、ぜひお考えいただきたいです。

―1950年代に打ち立てた「銘木の大衆化」という大きな目標を、平成の世になってあらためて見つめ直し、その原点に立ち返ることになった「Live Natural」シリーズの誕生。
そして、室内犬とともに暮らす生活スタイルに応えるべく模索された「Live Natural for Dog」では、「愛犬の滑りにくさ」「汚れ落ちのよさ」といった機能面だけではなく、「天然木の風合い」との両立こそが大事にされました。その根底にも、やはり創業の精神はしっかりと息づいていたわけです。

―ショールームよりメッセージ

東京ショールームでは、Live Natural for Dogを始めとした様々な床材を大面積で展示しています。
靴を脱いで直接床に上がっていただけるショールームなので、表面の足触りや滑りにくさの違いもご体感いただけます。大きな面積で展示することで、実際の仕上がりをよりイメージして頂きやすくなっていますので、是非お気軽にお越しください。

※文中敬称略


※2023年12月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。

朝日ウッドテック東京ショールーム

館内ショールーム

ライブナチュラルシリーズ(挽き板・突き板ナチュラル系)のフローリングを中心に素材、ディティール、色調など実際に触れて感じて頂けるよう広い面積で展示。床に直接上がって仕上がりや樹種の魅力を体感していただけます。その他、マンション用直貼り防音床材の歩行感体感コーナーや、木の素材感を活かした壁・天井材「the wall」、ライブナチュラルプレミアムのコーディネート部材も展示しています。