建築家に聞く、これからの
玄関づくりと土間空間の楽しみ方

家の内と外をつなぎ、家族や来客が必ず通る玄関は、家づくりにおいても重要な場所です。
訪れる人にも家族にも心地よい空間にするために、玄関を中心に家づくりを考えませんか。
玄関の外のしつらえから、今人気の土間空間の活用法まで、これからの玄関づくりで大切なポイントを、「fantastic design 一級建築士事務所」代表 赤松純子さんにお聞きしました。

― 住まい全体の印象を変える、玄関外のしつらえ

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OZONE家design住宅事例
設計:東 信洋/space fabric一級建築士事務所(OZONE登録建築家)

建築家として玄関のしつらえを考える時、まずは敷地を読みどこが玄関にふさわしいかといった配置計画から入ります。
扉を開けた時に、道路から室内が丸見えになるのは嫌ですよね。雨が降ったら濡れる狭い玄関ポーチも避けたいです。そういった設えが、住まいの品を作っていくように思います。もちろん都内の狭小住宅など、やむを得ない場合もありますが。

最近は、植栽や玄関周りの外構のデザインがすごく重要なポイントになってきていると感じます。
住宅づくりは、どうしても内部にこだわりたくなりますが、その分外構の予算が削られ、外構計画は一旦保留となり、新生活がスタートすると日常の忙しさに紛れ、外構は何もないまま・・・となることもしばしば。

また最近は、物価高もあって建物を小さく、外観もシンプルに作ることが多くなっています。そこで、もっと雰囲気を出したいという時に、外構が大きな魅力をつくってくれます。
外構の計画も見据えて、家づくりを検討していくことが大事だと思います。

玄関までのアプローチもポイントのひとつ。
限られた敷地でも、玄関ポーチに至るまでの距離を少しでも取ることで、豊かさが生まれます。 アプローチには、植栽を入れたり、塀にプランターを取り付けるだけでも、玄関に至るまでの景色を切り替えられるのでお勧めです。
夜ライトアップするときも、植栽があると葉の陰影が外壁に写ってファサードの見え方が変わり、昼間とは違う風景を楽しめます。仕事帰り、ライトアップされた家の光景が目に入ると、より我が家感が増すのではないでしょうか。

― 土間をつくって、会話や趣味を楽しむスペースに

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OZONE家design住宅事例
設計:青木律典/デザインライフ設計室(OZONE登録建築家)

玄関を広くしたいというご要望はこれまでもありましたが、やはりリビングに比べて優先順位は低めでした。でもコロナ禍を経たこともあり、最近は土間を広くとり、機能を持たせる事例は本当に多くなっています。

土間を広くする理由のひとつは、来客の際のちょっとしたスペースにしたいということ。
イスやベンチを置くことで、家の中に上がらなくても座って気軽にお話しできるのが魅力です。
都市部では 2 階にリビングがある家も多く、かなり親しくないと 2 階まで上げづらいこともあって、セカンドリビングとして土間空間をご提案することもあります。

ペットがいるお宅では、散歩帰りのお世話や、遊ぶためのスペースとして設ける方も多いですね。地窓を切って、ワンちゃんが外を見られるように設計した事例もあります。
土間は暗くなりがちなので、地窓で足元を明るくしたり、隣り合う空間から光を導き入れたり、一工夫します。並びに吹抜や階段があれば、上からの光を土間に落とすのも素敵な空間になります。逆に、あえて暗くして雰囲気をつくり、明るいLDKとのギャップを作るのも、玄関の演出として素敵ですよね。

そして、土間を趣味の空間にしたいというご要望も増えてきました。
土間にミニキッチンを設けたり、玄関ポーチを拡張して土間カフェをつくった事例もありました。
カフェを開くところまでいかなくても、バイクや自転車のメンテナンス、キャンプ用品などを外で洗ったりと、趣味スペースとして皆さん活用されていますね。

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OZONE家design住宅事例
設計・施工:ますいいリビングカンパニー(OZONE登録工務店)

特にお父さんが休日の趣味の場所として、お子さんと一緒に過ごすスペースとしても有効だと思います。 そうしたご要望なら、LDKと完全に区切るのではなく、目隠し壁の上部を開けたり、見え隠れする木ルーバーなどで、空間として繋げることもあります。
気配も伝わりやすくなりますし、リビングにいる家族ともコミュニケーションが取りやすいですよね。

またコロナ禍以降、テレワークスペースを設けたいというご要望が増え、土間を拡張して書斎をつくり、仕事の来客がLDKを通らずに話が出来るようにした事例もありました。

さらに土間を延長し、デッキなどの半屋外スペースに繋げることもあります。ポイントは屋根を設けること、奥行きを取ること。室内とはまた一味違う屋外の居心地の良さ、季節を感じられる場所としてもっと広がると良いなと思っています。

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洗面カウンターは歯ブラシなどの日用品も置かれるため、オープンでも少し隠れるよう壁を設けたり、視線の先からから外すといった工夫を。
設計:赤松純子/fantastic design 一級建築士事務所

コロナ禍の影響でいうと、玄関や土間の近くに洗面台を設置することもスタンダードになっています。

ただ、手洗いスペースと洗面カウンターを両方設けるのはコストがかかりますし、お掃除の場所も増えます。

それならできるだけまとめましょう、ということで、玄関まわりに洗面カウンターとトイレを設置される方が多いですね。

その際、訪問者に日用品が目立たないよう配慮することも大切です。

― 訪れる人も家族も心地いい、玄関の機能とデザイン

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玄関側からも部屋側からも入れる収納スペースを設けた事例。
玄関側の収納にはベビーカーなども置くことができ、内からも外からも棚を利用できることで、玄関に靴や物が広がるのを防ぎます。
設計:赤松純子/fantastic design 一級建築士事務所

玄関は、家族はもちろん、来客や宅配業者などさまざまな人が通ります。
そこで玄関に求められることとして、まず 1 つ目は、機能面で動線が破綻なく作られていること。
2つ目は収納ですね。色々なものがたまるので、外に溢れ出ないように収納計画をきちんと考えること。
3つ目はお客様に向けて、格好良く、美しく見せるという意匠的な部分になると思います。 まず機能面ですが、来客動線と家族動線を別にする 2WAY 動線をつくる方が減ったこともあり、最近はクローズドタイプのシュークロークがとても多くなっています。
ポイントとしては、靴がたたきに散らかった状態にならないように、動線に気を配るということ。
靴を脱ぐ場所と、靴をしまう場所を適切につくらないと、結局は靴が散らかることになります。

収納については、日常の生活動線上に設けて、物を出し入れしやすくするのがベスト。
靴をはじめ傘や鍵、アウトドアやガーデニング用品、非常用品の置き場にしたり、上着をかける方も多いですね。そして、ベビーカーから外遊びの道具、ランドセルまで、ライフステージによって変化していくお子さまのものも沢山あります。

収納はご家族の生活スタイルによって、サイズ感も全く異なるので、ヒアリングの際にどういう生活を思い描いているか、今後どうしたいかなども聞き取りながら設計していきます。

意匠的な話は、メンテナンスと飾りの部分に分けられます。メンテナンスは収納含めて掃除のしやすさですね。

素材としては、少し前はモルタルにする方が多かったですが、今はタイルも人気です。どちらも手入れしやすい素材ですが、デザインの幅が広がるので私はタイルをおすすめすることが多いですね。

飾りの部分では、最小限のサイズで、効果的なニッチ棚をつくることが流行っていますね。くぼんでいる分、ほこりもつきにくくお手入れしやすいのもポイントです。
ニッチ棚は、自分がお客様になったつもりで、玄関扉を開けた時に、 最初に目線が行くところはどこか、つまりフォーカルポイントがどこにあるかを考えてつくるといいですね。
小物などはあちこちに置かず、そこに集中させることで、すっきりと魅力的な玄関になります。

お客様と話していると、ここ数年で要望が一極化してきているように感じるんですね。
それはやはり、皆さん Pinterest や Instagram など SNS をよく見ているので、情報ソースが同じなんです。目につく魅力的な写真はそう変わらないので、北海道でも沖縄でも参考に持って来られる写真が同じということも起こります。

そうすると建築家としては、お客様のご要望を踏まえながら、もっと何か提案できないかと考えるのですが、私としては半屋外の空間を豊かにつくっていくことが 1つのテーマとしてあります。

今の住宅は、とにかく高気密・高断熱で、隙間なくラッピングされたような状態です。
快適ではありますが、外の音が全く聞こえなかったり、気配が感じられなかったり、外との断絶がより進んでしまうんですね。
近隣の方とのつながりが薄れて、例えば災害時なども困ることになります。
そこで、お隣の方が来た時にちょっとお話しできるようなポーチや土間といった半屋外空間を提案することも私たちの役目でもあり、そのことが暮らしをより豊かにしていくのではないかと、仲間と話しています。 また、ウッドデッキやテラスといった縁側的な空間を居心地よくつくることで、外を楽しむ機会も増やせるのではないかと思っています。

心地よい半屋外の空間をつくることで、季節の流れや近隣の人たちの気配を感じながら、より豊かに暮らせる住まいをこれからもご提案していきたいですね。

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赤松 純子(Junko Akamatsu)

建築家・インテリアデザイナー。
横浜国立大学・大学院建設学科卒業。
伊東豊雄建築設計事務所などを経て、2001年「ファンタスティック デザイン 一級建築士事務所」設立。
2006~2021年武蔵野大学にて非常勤講師を務め、2013年よりOZONEでは提携インテリアデザイナーとして活躍。
建築家の視点から、マンションや戸建ての内装選定からインテリアコーディネートまで、空間のトータルデザインを得意としている。

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【今回ご紹介したOZONE家designの事例はこちら】
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※2024年3月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。

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