令和6年能登半島地震により犠牲となられた方々に心よりお悔み申し上げるとともに、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。被災地域の一日も早い復旧と復興を衷心よりお祈り申し上げます。

2023年9月1日、我が国は関東大震災発生から100年を迎えました。災害への日ごろの備えと心構えを絶えず忘れないようにと、その9月1日は「防災の日」と定められています。また来年の2025年1月には阪神・淡路大震災から30年の節目が訪れます。

OZONE 7Fの【ムラコシ精工 新宿ショールーム】を運営する株式会社ムラコシ精工は、家具や建具に使われる機能金具メーカーとしての経験と技術を活かし、地震発生時における建物内の防災・減災に貢献する方法を日夜研究し続けていますが、その取り組みの発端は、まさにその阪神・淡路大震災にあるとのこと。
創業105年を数える老舗金具メーカーが、どのようにして「耐震金具」の研究開発という道に進んでいったのか。創業からの事業の移り変わりを含め、その経緯を株式会社ムラコシ精工住インテリア事業部執行役員の柄澤祥史さんに伺いました。

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リビングデザインセンターOZONE 7F【ムラコシ精工 新宿ショールーム】

ミシンネジ製造から、「鬼目ナット」での躍進へ

―まずはムラコシ精工の創業からの成り立ちについてお聞かせください。

柄澤 創業は1918年、国分寺の農家の三男坊だった村越政右衛門が「村越鉄工所」として起こした会社が元になっています。
横須賀の海軍工廠で金属加工技術を学んだ後に独立したそうで、当初はネジの製造販売を行っていたんですが、戦争が始まるとほとんどが軍用品に変わったようですね。終戦とともに一旦は会社を閉めたんですが、長年一緒に働いてきた工員さんたちに請われて、ほぼ1年後にもう一度会社を再スタートしました。
そこからはミシンネジの製造が中心になっていきます。戦後の物のない時代、ミシンはとても大事な機械でしたし、当時、ミシンメーカーは国内に100~150社もある大きな産業になっていました。実際、弊社にも受注がひっきりなしにあり、一時期は日本最大のミシンネジメーカーになったそうです。社員も増えて、300人規模の工場を構えるまでになりました。

―その後のムラコシ精工の事業をさらに発展させたものとして、1960年代に開発され、2022年にはグッドデザイン・ロングライフデザイン賞も受賞している木工用ジョイント「鬼目ナット」の存在があるのではないでしょうか?

柄澤 その発端もやはりミシンなんです。当時のミシンは金属部品と木製の机が一体化したような、とても大きく、重く、分解もできない形状だったので、輸送の手間と無駄が多い製品でした。取引先のミシンメーカーから、そういうミシン台をなんとか分解・組立ができる仕組みにできないかと相談を受けたわけですね。
そこで二代目の村越一雄が発明したのが、木部に直接ビスをねじ込むのではなく、受け金具を打ち込むことで部材同士の安定した結合ができる中空状のナットでした。木部へ入りやすく抜けにくい突起を外周に付けたんですが、それが日本で古くから木工用のヤスリとして使われていた鬼目ヤスリに似ていたので、「鬼目ナット」と名付けられたそうです。

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グッドデザイン・ロングライフデザイン賞(2022)受賞の木工用ジョイント金具「鬼目ナット」

柄澤 その結果、梱包容積を大幅に縮小することができ、輸送コストやエネルギーの削減にもつながっていきます。ただ、あれだけ栄えていたミシン産業が1960年代後半には一気に衰退してしまうんです。多くのメーカーが人手を求めて、海外に移転してしまったんですよ。でも、今度は様々な家具や家電製品、スピーカーなどのオーディオ製品に引き継がれて、鬼目ナット自体はしっかり生き残っていくんです。その頃、MDFやパーティクルボードなどの集成材、要するにビスが効きにくい材料の流通が盛んになってきたことも追い風でした。
鬼目ナットはそういう材料にこそ最適だったので。自動車部品や仮設トイレ、スタジアム用のイスなど、鬼目ナットをインサートした状態で成型したプラスチック製品なんていう、私たちも想定していなかった使われ方も現れ始め、用途が広がっていきます。

家具・住宅用の機能性金具から、「耐震金具」の開発へ

―そこからさらに、現在のムラコシ精工が得意としている機能性金具の製造に事業が拡大していくわけですね。

柄澤 そうなんですけど、それもやはり鬼目ナットあればこそなんですよ。鬼目ナットで家具をジョイントする技術が磨かれ、やはりそこに扉が必要だからとヒンジやレールの開発が進み……というように、家具や建具まわりの金具をすべて自社で賄えるよう、製品の数を増やしていったような形です。また、2010年には、自動車部品製造の「株式会社ムラコシ」と、家具・住宅関連金具製造の「株式会社ムラコシ精工」の2社が合併し、一つの「ムラコシ精工」なっています。
自動車部品製造の経験は、家具・住宅の金具製造にも大いに役立っています。自動車製造の世界には「重要保安部品」という概念があります。要するに人命に関わるような動力伝達、ハンドリング、制動、緩衝、燃料制御などの製品・部品のことで、これらにはとても厳しい品質基準が課せられているわけです。そうした製品を製造し続けてきた部門が社内にありますから、品質管理や安全性に対する意識は、他の家具・建材・金具メーカーよりもことさら強いつもりです。設計・開発部門と、検査・試験部門を自社の中に備えているのも、そのためです。自社で開発した責任の持てる商品を、自社で納得いくまで行った検査をパスした状態でお届けしたいというのが、私たちの品質保証の基本的な考え方になります。

―現在のムラコシ精工の家具・建材金具製品のなかで、大きな特徴となっているのが「耐震金具」の存在ですが、これはどのような経緯で開発が始まったものなのでしょうか。

柄澤 きっかけは1995年の阪神・淡路大震災で、弊社の社長(現会長)が現地に入って調査や聞き取りを行っています。その結果、部屋や廊下に落ちてきた物で脱出路をふさがれ、大きな被害を受けた人が多いということが分かって、家具・建材に関わるメーカーとして心を痛めたわけです。
自分たちにできることを考えた結果、大きな地震が起きても不用意に収納扉が開かず、物が落ちてこない金具を開発しよう、ということになりました。主に収納家具やシステムキッチンの扉を想定して、最初の「耐震ラッチ」を1995年のうちに発売するというスピード感で開発が進みます。
しかしこれはまだ、取っ手を摘んで引くと内側のラッチ(留め具)が外れて開くタイプのもので、基本的には常時ロックした状態でした。

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初期型の「取っ手連動型」の耐震ラッチ。まだ地震の揺れを感知する機構は備えていなかった。

―そのタイプでも十分に効果はありそうですね。

柄澤 自社での販売の他、ハウスメーカーやキッチンメーカーにも多く採用いただきましたので、確かに効果はあったんです。
しかし、内側のラッチ受けが物の出し入れのときに邪魔に感じたり、機構上、取っ手のデザインがどうしても制約されてしまうんです。特にシステムキッチンなどはデザインがとても重要になりますので、お客様やデザイナーの要望に応えるには、このタイプはまだまだ改善の余地があったわけです。そうこうしているうちに他社からも同じような商品が出始め、中には揺れを感知して扉をロックする「感知式」のものも現れ始めます。機構の内部にパチンコ玉のような球体が入っていて、揺れてその球が受け具から外れるとロックされる仕組みのものでした。ただし、地震の後にロックを解除しようとすると、家具や扉を乱暴に強くたたいて、その球を元の位置に戻さないといけないという、ちょっと無理のある仕組みのものもありました。そこで我々は、「揺れるとロックされる」に加えて、「揺れが治まったら自動的にロックが解除される」仕組みを目指して新しい感知式耐震ラッチの開発を進めました。それが形になったのが、2002年10月でしたね。当時、この「自動ロック・自動解除」を備えた耐震ラッチ商品は、弊社のものだけでした。

―そして、2011年に東日本大震災が起きてしまうわけですね。

柄澤 そうです。この時もやはり現地に追跡調査に入りました。弊社の耐震ラッチを使用していたのに、地震の際に扉が開いてしまったという声を集め、一軒一軒のお宅にお邪魔してヒアリングをし、状況を確認しました。その結果をもとに、「起き上がりこぼし」のような物理的な仕組みの感知センサーの更なる改良に着手しました。感度や機構を見直してさらなる精度向上を図ったわけです。ただしこれが、ただ敏感にすればいいというものでもないんですよ。子どもが周りを走り回ったとか、近くの道をトラックが走ったとか、そういう揺れには反応せず、地震特有の揺れ方にだけ反応するような、本当に繊細な調整に明け暮れる日々が続きました。

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現在の主力商品:開き戸用耐震ラッチ PFR-TSA

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―そうした耐震ラッチの精度向上のために、人工的に地震の揺れを再現する試験装置「3次元加振試験機」を導入する必要があったということですね。

柄澤 そうです。以前はゼネコンさんやUR(都市再生機構)さんなどが持っている大型の装置を借りて試験をしていたんですが、様々な揺れの再現試験を行うには一週間以上かかったりするわけで、なかなか自由に使うこともできず、使用料も莫大になってしまうんです。それならばいっそ、自社で持ってしまったほうがいいと決断し、弊社と同じ小金井市で加振装置の開発を行っていたソルーション株式会社さんの協力を仰いでカスタムメイドし、2013年に山梨一宮第一工場に導入しました。弊社はゼネコンさんのように住宅一棟を丸ごと揺らすような大きさも必要ないわけで、2m×2mの面積が揺れる小さなタイプで十分でした。これによって開発スピードも飛躍的に向上しましたね。この大きさでも大丈夫という方には受託実験、要するに試験機のレンタル貸しも行っています。

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3次元加振試験機を使用した耐震ラッチの試験の様子。

―最後に、阪神・淡路大震災に始まる、約30年にわたる製品開発を振り返って、あるいは、その先の未来に向けての次の開発目標など、防災・減災への思いをお聞かせください。

柄澤 阪神・淡路大震災の時に抱いた、防災・減災への貢献という目標に少しでも近づくべく、これまで開発を重ねてきましたが、おかげ様で弊社の耐震金具シリーズは、現在では大手ハウスメーカーや家具・キッチンメーカー、大手飲食チェーンなどに標準仕様品としてご採用いただくに至っています。それもやはり、自社で図面を引いての開発から、自前の加振試験機でのテストまで、品質管理に責任の持てる一貫体制と、そこを信頼してくださるお客さまあってのことだと思っています。ただ、現状に満足することなく、次の目標へのアプローチももちろん進めています。例えば、これまで地震の揺れを感知するシステムは物理的なものに限り、その精度の向上に邁進してきたわけですが、今後は電子機器によるセンシングや、スマートフォンやネットなどのIoT技術、スマートホームのような総合的な住宅環境制御システムとの連携の可能性なども探っていきたいですね。

―防災・減災への貢献というミッションのためには、これまで積み重ねてきた機械技術とはまた別の方向となるIoT技術との連携も、可能性としてまったく排除しないというムラコシ精工の攻めの姿勢。鬼目ナットの発明が、想定以上の用途と範囲に拡大し、その後の可能性を大きく切り拓いていったのと同じように、耐震金具もまた、次代のムラコシ精工を支え、かつ、日本の住宅環境を災害から守るスタンダードな技術として、さらに拡大していくことを期待したいと思います。

動画「耐震金具を採り入れる住まいの地震対策」(2022)
耐震ラッチをはじめとする耐震金具の機能や、加振機を使用した実験の様子を動画でご紹介しています。

―ショールームよりメッセージ

ムラコシ精工新宿ショールームでは、耐震ラッチの性能を実際に体感できるよう、ミニ加振機を設置しています。耐震ラッチを取り付けた際の効果をその場でご覧いただけますので、スタッフに声をおかけください。さらに耐震ラッチだけでなく様々な住宅内装用の機能金具と、アルミフレームの家具・建具用扉を展示しております。普段あまり見ることのない金具に、見て・触れて、暮らしを良くするヒントを感じてください。

※文中敬称略


※2023年12月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。

ムラコシ精工 新宿ショールーム

館内ショールーム

金具メーカーのショールームです。
主に、住宅内装用の機能金具を扱っております。
お部屋の様々なライフスタイルに合わせて、便利な機能を持った金具をご紹介します。
室内ドア、収納扉、家具扉に至るまで、使用用途に合わせたご希望の商品が見つかるかもしれません。
また、耐震金具や収納金具など、幅広く取り扱っています。