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その出展企業の一つ、「タチカワブラインド」の名で広く知られる立川ブラインド工業株式会社は、国産ブラインドの代名詞ともいえる「シルキー」シリーズを世に送り出した、窓まわり住宅資材の老舗メーカー。その新製品:プリーツスクリーン『ペルレ ダブル』がこのたび、2022年度グッドデザイン賞を受賞しました。ブラインドの次のスタンダード商品を目指して開発された「プリーツスクリーン」20数年間の歩みと、タチカワブラインドの製品開発姿勢について、マーケティング本部営業推進部の村谷俊実さん、阿知波匡章さんにお話を伺いました。
―創業時からいち早く「ブラインド」に注目
立川ブラインド工業の前身「有限会社立川工業所」の創業は昭和13年とのこと。しかし、カーテンに代わる窓辺の主役としてブラインドが知名度を得たのは、戦後、しかも1970年代以降のことでした。はたしていつ頃から「ブラインド」という製品に注目されていたのでしょうか……
阿知波 創業時から既にブラインドという新しい住宅資材に目を付け、試行錯誤しながら布製や木製の商品を開発していました。創業者はそもそも、製本などで使用する糊で固めた板状の布製品を作る会社で働いていまして、その技術を学んだ後に自身で会社を興し、ブラインドの製造を始めています。もちろん当時の日本ではまだブラインドはほとんど知られておらず、「通風日除け」という名称で取り扱っていたということです。戦後すぐの昭和22年に株式会社の立川ブラインド工業に改組し、ジュラルミン製の金属ブラインドの製造も開始していますが、しばらくは駐留軍施設や公共施設などへの納入、つまりオフィス需要がほとんどでした。
村谷 家庭への普及はもっと後になるわけですが、実は1960年代、ブラインドよりも先に「アコーデオンカーテン」という商品が大ヒットしています。この名称も当社の登録商標です。高度成長期の団地・ニュータウンブームのなかで、キッチンや脱衣所の間仕切りとして重宝されました。当時の団地の大半は統一的な規格で設計されていたので、個々に寸法を測ってあつらえずとも容易に取り付けることができたそうで、トラックにアコーデオンカーテンをたくさん積んで団地を一周りするだけで本当によく売れたと、先輩からは聞かされています(笑) そして1971年には、家庭の窓にも設置しやすい25mm幅の細いスラット(羽根)のアルミ製インテリアブラインド「シルキー」を発売します。ここから当社の家庭用窓まわり製品が展開していきます。
―新たな主役「プリーツスクリーン」の登場
高度成長の波をしっかりと掴み、オフィス需要から住宅用への風向きの変化も敏感に嗅ぎとってきたタチカワブラインド。その強靭な対応力は昭和から平成に時代が変わっても継承されていきます。
阿知波 「シルキー」に続いては家庭用タテ型ブラインド「ラインドレープ」シリーズを、そして1986年には「ロールスクリーン」の発売を開始します。住宅の窓にはゴージャスで美しいカーテンを……というそれまでの常識に対して、スタイリッシュで平面的なデザインの製品も選択肢になり得ることを提案し続け、窓まわり製品のバリエーションを徐々に増やしていきました。そして次の一手として発売したのが、今回グッドデザイン賞を頂いた商品の元祖である、プリーツスクリーン「ペルレ」シリーズで、1999年のことでした。プリーツスクリーン自体は元々海外の生まれですが、日本では和紙が使われたことから和室で使うイメージが強く、障子に代わるアイテムとして人気があったものです。それを当社はあえて本来の洋風なイメージに戻すような方向性でチャレンジしました。それが「淡い光」を意味する語「ペールライト」に由来するブランド名「ペルレ」にも象徴されています。
村谷 和室以外にも用途を広げたかった理由に、プリーツスクリーンはたたみ上げると畳み代(たたみしろ)がブラインドよりもさらにコンパクトに収まるので、窓上部の見栄えや採光を妨げないというポイントがありました。要するに洋室でもカーテンの代わりとして十分機能すると考えていたからなんです。そこで注目したのがカーテンの重要な機能の一つである「遮光」です。遮光が可能な生地によるプリーツスクリーンを用意すれば、かさばらない新世代のカーテンとして需要があるのではないかと考えたわけです。そこから遮光性の高いドレープカーテンの役割を果たすものや、レースカーテンに相当する透光性高いものなど、生地やカラーのバリエーションを徐々に増やしていきました。また、当初は上部のプリーツが自重で大きく開き、下部のプリーツは小さく開くような偏りが出てしまっていたんですが、現在では開き具合を均一にできるピッチ保持技術が確立しています。こうした構造・メカニズム面と、素材・ファブリック(生地)面との両方で技術開発を積み重ねてきています。
―プリーツスクリーンによる「調光」への挑戦
独自の視点でプリーツスクリーンの機能と可能性を分析し、カーテンやブラインドに代わる窓辺アイテムとして「ペルレ」シリーズを育てていこうというタチカワブラインドの挑戦は、さらに続きます。
村谷 「ペルレ」シリーズの大きな転換点は、「ペルレ ペア」の開発でした。遮光性のあるドレープと、透光性のあるレースを上下につなぎ合わせ、その境目の位置の調整によって室内に差し込む光量の調整、外部に対する目隠し効果などを自在にコントロールできるようにしました。1999年に「ペルレ」シリーズを立ち上げて、ほどなく「ペア」も発売しているんですが、現在でも「ペルレ」の売上の6割近くが「ペア」になります。それだけ、カーテンに代わる調光のできる窓辺資材のニーズは高かったんだと考えています。
阿知波 「上下」の次は「前後」への挑戦でした。ドレープとレースを前後に配置した仕組みのプリーツスクリーンが欲しいというお客様の要望にお応えしたのが、2022年5月に発売した「ペルレ ダブル」になります。微妙な調光機能の実現に加えて、二枚の間に空気層を確保することによる断熱効果の面でも、カーテンの持つ優秀な特性を、プリーツスクリーンでもほぼ再現できたことになります。
―さらにZEH/HEMS対応を見据えた電動化、スマート化へ
この機構と効果が評価され、今回グッドデザイン賞の受賞につながったわけですが、「ペルレ ダブル」の展開はそれだけに留まりません。タチカワブラインド製品に広く装備できる汎用電動化システム『スマートインテリアシェード ホームタコス』と組み合わせることにより、駆動の電動化、さらには市販のスマートスピーカーやスマート家電リモコン等との連携によって、声やタイマーでの操作指示、ネットを介してスマートフォンや外出先からのコントロールなども可能になるということです。
阿知波 ヨコ型ブラインド、タテ型ブラインド、ロールスクリーン、プリーツスクリーン、カーテンレールなど、弊社の各種窓まわり製品に横断的に取り付けできる電動化システム『ホームタコス』シリーズを2007年から製品化していて、もちろん「ペルレ ダブル」でも使用可能です。ご家庭での利用を第一に考えたシリーズなので電源は家庭用コンセントとし、複雑な配線工事を不要にしてあるのも特徴です。また、操作用のチェーンやコードが要らなくなることで、輪の部分に首を引っかけるなどのお子さまの事故を未然に防ぐことも重要なポイントだと考えています。静音性の確保、適正な巻き取り速度やその安定性なども開発段階において気を配った点です。
村谷 さらに最近の動きとして、スマート家電やスマートホームなどの住宅事情の変化も鑑み、『スマートインテリアシェード ホームタコス』という形にブランドを再編成しています。電動化による利便性向上はもちろんですが、それだけが目標ではありません。ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)が目指す高気密・高断熱・低エネルギー消費住宅では、窓まわりの熱と光の処理がとても重要になりますし、それを最適化するための自動制御システムも不可欠です。それらIoT技術への対応を見越した取り組みとして進めている製品になります。
震災、コロナ禍を経た今、窓まわり・間仕切製品にできる「安心・安全・快適・環境」の形を模索し続けているというタチカワブラインド。SDGsへの取り組みはもちろんのこと、ZEHやHEMS、それをコントロールするIoTを見据えた商品開発にも、その姿勢が表れています。家庭での窓まわり資材といえばカーテンはおろか障子が大半を占めていたであろう戦前の時代に、いち早く「ブラインド」に注目していた先読みの力は、創業から85年を経ようという今もなお健在です。
※文中敬称略
※2023年4月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。