東京都がリビングデザインセンターOZONEの5Fにオープンしている施設【国産木材の魅力発信拠点 MOCTION】では、林業や木材活用の促進に関する有識者を講師に招き、多彩なテーマでセミナーを開催しています。今回は、29歳で一級建築事務所Camp Design inc.を立ち上げた俊英の建築家 藤田雄介氏をゲストに迎え、氏の住宅作品を紹介しながら木製建具を活かした家づくりについて語っていただきました。9月29日にOZONE 7Fのコラボレーションエリアにおいて行われたセミナーの様子から、その概要をご紹介します。
―リノベーションの仕事から生まれた「木製建具へのこだわり」

藤田 独立して建築設計事務所「Camp Design inc.」を構えてしばらくは、リノベーションの仕事が多かったですね。対象は団地やマンションから戸建ての住宅まで様々ですが、その中で木製の建具やドアノブ、ツマミなどを職人さんと協業で作る経験を重ねていきました。
モデレーター宮崎晃吉氏(建築家/株式会社HAGI STUDIO代表取締役)
団地のリノベーションからキャリアをスタートした藤田さんですが、一貫して木製の建具への深いこだわりがありますよね。元々そういう志向があったんでしょうか、それとも、間取りを大きく変えるわけにはいかないリノベーションという制約のある仕事の中から、そうしたアイディアが生まれたものなんでしょうか?
藤田 当初は建具にそれほど興味があったわけではありませんでしたが、リノベーションのプロジェクトを経験していくうちに、意外と可能性があるなぁ、建具にもできることはいっぱいあるなぁ……と思い始めて、作りながら研究を重ねていたら、いつの間にか10年くらい経っていたという感じですね。
宮崎 建具そのものはとても単純なものじゃないですか。しかし、そこを掘り進んでいくと、深くて広いフィールドがあることを発見したというわけですよね。でも、普通はなかなかそこまで深堀りできないですよね。
藤田 確かに、もっと他の事に注力すべきなんじゃないかと考えることもありました(笑)。でも意外と建具にそこまで執着のある建築家って見当たらないなぁと気づいて。だったら、トコトン掘ってみようと思いました。
―「戸戸(こと)」から広がるネットワーク

宮崎 その深堀りとこだわりが、ついに建具専門メーカーを設立するまでに至るわけですね。
藤田 戸戸と書いて「こと」と読みます。それぞれの家=戸(こ)の、それぞれの戸(と)をデザインするための建具専門のメーカーであり、ネットストアです。メーカーといっても単独で製作を行っているわけではなく、木工はもちろん、刺しゅうや陶工、漆、藍などの伝統工芸など、様々なフィールドの職人さんと一緒にアイディアや技術を出し合ってモノを作っています。私の知り合いの建築家やリノベーション会社などにも製品を使ってもらっていますし、ネットストアですので、もちろん一般の方にも購入してもらっています。
宮崎 自分が設計したわけではない物件に使われていくことで、なにか予期しないような使われ方をしたりすることも?
藤田 ありますね。こちらが想像もしないような使い方をされたり、意表を突く特注やアレンジの要望が来たり。でも、それを元にしてまた新たな発想が広がっていくので、むしろどんどん想定外の使い方をしてほしいですね。そもそもは建築事務所の設計仕事の一部として生まれたものが、職人さんの力を借りてプロダクトとなり、商品になることでさらに使われ方が多様になっていく…… この連関のネットワークこそ「戸戸」をやっている醍醐味かもしれません。
宮崎 住宅における木質化というと、柱、梁、床のように、どうしても量を使える構造材周辺の話になりがちですが、建具にその可能性を見出すというのは、面白いのはもちろんですが、ちょっと皆が忘れかけている大事な視点かもしれないですね。
藤田 建具自体が住まいと人をつなぐインターフェイスの役割を果たしているんだと思っています。開けたり閉めたりするだけじゃなくて、空間を仕切ったり、風景を切り取ったり。スケールも身体に近いものですし、光や風、温度に応じて使い方を変えるものなので「衣服」に近い存在と言えるかもしれません。その建具の素材が「木」であることはやはり重要だと思います。



―MOCTIONスタッフより
配信中の動画では、藤田氏のこれまでの活動内容についてのプレゼンテーションに加え、それに続くモデレーター宮崎氏とのディスカッションを含めたセミナー全編が公開されています。ぜひじっくりとご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=Emp1pk-ZUZc
「MOCTION」では、全国各地の特徴を活かした企画展や多彩なテーマでのセミナーを開催しています。また、補助金や木材事業者のご案内など、実際の利用に向けたご相談も承ります。
※2022年9月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。