東京都がリビングデザインセンターOZONEの5Fにオープンしているショール―ム【国産木材の魅力発信拠点 MOCTION】では、木材活用の促進を進める方たちに向けて、林業関係者や有識者を講師に招き、多彩なテーマでセミナーを開催しています。第8回目の今回は、岡山県 西粟倉・森の学校の立上げなど、日本の林業や国産材の可能性を探り続けている井上達哉氏(VUILD株式会社 COO)を招いて、【林業の今と未来】について語っていただきました。2022年5月20日にOZONE 7Fのコラボレーションエリアにおいて行われたセミナーの様子から、その概要をご紹介します。

―木材のサプライ・チェーン・マネージメント

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井上 大学で農学・林学を勉強した後、25歳で東京から岡山県西粟倉村に移住して「西粟倉・森の学校」を設立したところから林業との関わりが始まっています。そこで取り組んだのが、原木流通から製材、加工の流れづくりに加え、様々なニーズに対応できる木材の小売モデルやオンラインショップを構築することでした。原材料の調達から商品をエンドユーザーに届けるまでを一括管理して最適化を図る、いわゆるサプライ・チェーン・マネージメント(SCM)ですね。それを大企業や大工場ではなく、小規模の製材所・加工場を中心とした地域内の木材流通システムの中で構築できないだろうか……という試みを村役場や森林組合と一緒に行っていました。

モデレーター宮崎晃吉氏(建築家/株式会社HAGI STUDIO代表取締役)
その発想と経験が、井上さんが提唱している「林業のマイクロ6次産業化」という考え方の元になっているわけですね。

井上 そうです。現在は「西粟倉・森の学校」を辞してVUILDという株式会社に合流していますが、そこでは中央集約型の大量生産から、地域分散型の個別生産へのシフトを、テクノロジーの助けを借りて推進する試みを進めています。安価で高性能なデジタル木材加工機「ShopBot」の導入を全国で進め、そのネットワーク化を図っています。巨大な加工場を新たに構えるのは無理でも、この機械の導入なら数百万で済みます。また、クラウドプレカットサービス「EMARF」は、ネット上のサイトに木材加工データをアップしてもらえれば、そのデータの通りに加工して配送するという、ネット印刷サイトのようなサービスで、小ロットでも精度の高い木材加工品をオーダーできます。その仕組みを「ShopBot」の全国ネットワークが支えています。

宮崎 VUILDさんはアイディアを実際のサービスへ落とし込む力がすごいですね。理想を語る人は多くても、それをここまで実践している人はほんとうに少ない。サービスをここまで充実すれば事業が転がり出す…… そんな閾値みたいなものはあるのでしょうか?

―「正しい」よりも「楽しい」を重視したい

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井上 純粋に大事にしているのは、「そのサービスを使うとしたら自分たちは楽しいかどうか」というイメージですね。スマート林業なども注目されていますが、まず第一に目指すのが「業務の効率化」になりがちです。テクノロジーは効率化だけでなく、もっと仕事を楽しくしたり付加価値を上げる方向にこそ使うべきと考えています。仕事を仕事としてやっている時は楽しくないでしょう? 個人としてやりたいことをしているときにこそ素晴らしいアイディアや成果がアウトプットできるんです。

宮崎 確かに、効率を第一に考えると、手間のかかる事を避けるようになって、「他の誰かに任せよう」という発想になる。やむにやまれず、いつの間にかやってしまっていることのワクワク感のようなものが出たとき、仕事の楽しさがありますね。それを自分たちだけでなく、「木」に携わる人たちすべてに味わってほしい…… ということでしょうか?

井上 まさにそうですね。農業の人たちは、自分の作った作物を目の前で料理して食べてもらうという、最高に楽しい瞬間を作ることができる。でも、林業にはその喜びを実感できる場がなかなか無いんです。自分の伐採した木が、製材されて椅子になり、人が使うところまでを見る楽しさと充実感を味わってほしいんですよ。そういう楽しさの中にこそ本質があると思っています。

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―MOCTIONスタッフより

配信中の動画では、井上氏のこれまでの活動内容についてのプレゼンテーションに加え、それに続くモデレーター宮崎氏とのディスカッションを含めたセミナー全編が公開されています。ぜひじっくりとご覧ください。

https://www.youtube.com/watch?v=LFq0riS7Djc&t=281s

「MOCTION」では、全国各地の特徴を活かした企画展や多彩なテーマでのセミナーを開催しています。また、補助金や木材事業者のご案内など、実際の利用に向けたご相談も承ります。


※2022年6月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。

国産木材の魅力発信拠点 MOCTION

館内ショールーム

全国各地と連携し東京都が運営するこの場所では、国産木材の活用に向けた様々な情報を発信しています。常設エリアでは、東京の多摩地域で産出された「東京の木 多摩産材」を使用し、オフィス空間を提案。企画展示スペースでは全国の都道府県が展示を行います。また木材の活用に役立つセミナーも開催しています。