2022年が始まりました。国産木材の初競りでウッドショックの影響により例年よりも高値がついたことが一般のニュースに取り上げられるなど、国産木材に対する注目は高まっています。
国産木材の魅力を発信する「MOCTION」では1周年記念として、隈研吾建築都市設計事務所が手がけた桐朋学園宗次ホールを会場に、隈研吾館長と梅津時比古氏(桐朋学園学長、ジャーナリスト)のスペシャル対談を行いました。今回は、桐朋学園宗次ホールの事例解説や国際木材を使った空間の意義などについて語り合った対談の一部を抜粋してご紹介します。
―バイオリンのように音が響くホール
隈 この宗次ホールはCLTでの木造で、ある意味で日本のベンチマークになるような建物です。外観は楽譜に音符が乗っているようなイメージで線を基調とした木の使い方をしており、中に入りますとCLT の断面が見える印象的な階段室があります。木の塊として階段をつくっており、壁面も木の美しさが強調されるデザインとなっています。ホールの中は、CLTの面がそのまま仕上げに用いられています。普通CLTは構造部材にもなるので上に貼ってしまうこともありますが、ここではCLTの面の美しさを見せるためにCLTをそのまま仕上げ材にもしているんですね。
梅津 これが本当に美しいですね。
隈
折板状に曲げることで音響上の効果もございまして、面と面を並行にすると音楽ホールでは音を共振させてしまうので、面と面の角度を変えるということを原理にしてこの形をつくっています。構造的にもこういう折板構造は面を真っ直ぐにするよりも折板にすることで非常に耐震性が増すものですから、音響と構造を両立させるということが全体のデザインとなっています。
それからさらに光の効果、光を間接照明で直接光源を見せないで木に当てて、木の柔らかさをうまく反射面として利用するという光のデザインになっています。木による音と光の総合的な演出という空間ができあがったわけです。
梅津 楽器というのは考えてみればほとんど木でできているんですね。ヴィオラもそうですし、このピアノも外は全部木です。先生に木でつくっていただいた外の棟(桐朋学園仙川キャンパスS棟)とこのホールに学生たちが入っているのを見ると、チェロみたいな大きな楽器の中で学生たちが勉強しているようで、やっぱり木でよかったなと思いました。
隈 今までのホールのつくりかたでは仕上げに木を使うだけなので、その裏にある躯体と呼んでいる構造体はコンクリートや鉄で、その上に薄い木を張っています。でもこのホールはCLTという厚みのある木が建物全体の構造になっていますので、CLT全部に音が響き渡っている。それはまさにピアノやバイオリンで起こっていることがこの空間全体で起きている。私どもも設計しながら自分たちは大きな楽器をつくっているのだなと思いました。
―これからの国産木材と教育の関わり
梅津 今後教育的にも木の建築をつくって教育に資するという考え方が出てくるんでしょうか。
隈 そうですね。戦後の教育というのは空間的にも標準設計という考え方があって、なにしろ大量に素早く教育するためにはコンクリートの教室をバッとつくる、それも標準設計で寸法からディテールまで何から何まで細かく決まっている、という制度で国は動いてきたんですね 。そういうものが子どもに大きなストレスを与えたり、多様性というものをそれで失わせたりという弊害が指摘されるようになってきた。これからは多様で心豊かな子供を育てるに、やはり木の空間で教えていかなければいけない。そういう流れがようやく日本でも出てきたのを感じます。
梅津 しかも、地元の木を使う、できれば日本で生まれ育った木を使うということになれば循環的にも最高ですよね。
隈 僕はこの木が地元の木だということも子供たちに教えたいなと思っているんです。あの森の木がこういう風になって、また木を植えて大事にしていけば循環が生まれることを、実物を通じて子どもたちに伝えたい。東京ってすごいことに、これだけの世界的な大都市なのに森がたくさん残っているんですよね。そういう循環をうまくやっていけば東京ももっともっと緑が増やせるかもしれない、もっと環境がよくなる、ということを子どもたちに伝えていきたいですね。
―MOCTIONスタッフより
配信中の動画では宗次ホールの他、隈研吾館長が近年手がけた海外の音楽ホールについても解説されています。
ぜひじっくりとご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=zECdAoqsT8o
「MOCTION」では、全国各地の特徴を活かした企画展や多彩なテーマでのセミナーを開催しています。また、補助金や木材事業者のご案内など、実際の利用に向けたご相談も承ります。
文/長野 伸江
※2022年1月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。