リビングデザインセンターOZONE 6F【浜本工芸 東京ショールーム】を運営する浜本工芸株式会社は、1948年に広島県で創業した老舗家具メーカーです。

リビングセット、ダイニングセット、食器棚、テレビボード、学習机、書斎家具などをトータルにコーディネートできる幅広い製品を揃え、木目の美しさや耐久性に優れるナラ無垢材へのこだわりや、一貫した国内生産体制などが特徴です。今回は、長い年月にわたって愛される「本物の家具づくり」という浜本工芸のモットーを象徴するかのような、同社製の学習机を昭和40年代から愛用しているご家庭を訪問。【浜本工芸 東京ショールーム】の館長を務める株式会社浜本(販売部門)の吉本徳太郎さんにも同行いただき、親から子へと引き継がれながら、今もなお使い続けられている学習机についてのお話を伺いました。

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リビングデザインセンターOZONE 6F【浜本工芸 東京ショールーム】学習机・書斎コーナー

小学校入学時からのつきあいになる、思い出深い学習机

―埼玉県下のご自宅でドライフラワーのアレンジメント教室を営まれている稲田さん。こちらのご家庭には、長年にわたって使い続けられている浜本工芸製の学習机が2台あり、今もなお現役で愛用されています。まずはこのデスクとの出会いについてお話を伺いました。

稲田さん 昭和48年(1973年)のことなので、今からちょうど50年前になるかと思います。私が小学校に上がる際に母が日本橋の高島屋まで出向き、選んで購入したのがこの机でした。まだ小さかった弟の分まで、一度に同じものを2台揃えたようです。当時は東京都武蔵野市に住んでいましたので、日本橋のデパートまでわざわざ出掛けるというのはよほどのことだったと思います。それだけ、良い品質のものを見定めたかったんでしょう。学習机売り場を見渡してみて、一番目を惹いたのがこの机だったと、母も話していました。

その頃は、ガッチリしたスチール製の学習机が流行っていて、高さ調節ができたり、時計や鉛筆削りが内蔵されているような、機能性を競っている雰囲気がありました。私にもそういう机が来るのかなと思っていたら、我が家には場違いなくらい大人っぽい机がやってきてビックリしたんです。でも、初めて自分の「居場所」を貰ったような、自分がすごく大人になったような気分でした。付属の本棚には蛍光灯のライトが内蔵されていましたし、引き出しはそれこそ宝箱のように思えてワクワクしながら使っていました。

実際、母からは、「この机はとても高かったけど、一生物だから大事に使ってね」と言われていました。当時は社宅住まいでとても狭かったのに、4畳半の部屋にこの机が2台、ドン・ドンと場所を取っていたわけですから、母にとってはかなり思い切った買い物だったと思います。

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元は稲田さん自身が使用し、現在は長男が使っているという浜本工芸製の片袖の学習机(1968年製造開始)。

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次男が使っている、元は稲田さんの弟さんのものだった同型のデスク。

いずれも現在は稲田さん宅の一室に並べて置かれ、息子さんご兄弟が現役で使用中。1973年購入の学習机だが、時代の移り変わりを反映し、現在はパソコンや周辺機器で机上が占められている。

―現在、この学習机はどのように使われているのでしょうか?

稲田さん 私が使っていた机は、長男の小学校入学を機に譲りました。2004年頃だったと思います。困ったのは次男の時でした。私の思い入れたっぷりの机を長男に受け継がせたのに、次男には何も無しというのはあんまりだなぁと思って。そこで弟に頼んで、弟が使っていたもう一台を譲り受け、それを次男の机として使わせることにしたんです。弟はずいぶん渋ってましたけれど(笑) 1973年に武蔵野市の社宅に同時にやってきた2台の机ですが、私と弟の巣立ちとともに一度は離ればなれになりました。それがこの家でもう一度再会したことになりますね。長男次男ともまだこの家で暮らしていますので、子どもたちの部屋で今でも活躍中です。

父も転勤族でしたし、私も何度も引っ越しをしています。それに息子の大学入学や夫の単身赴任などを含めると、武蔵野市、茨城県、静岡県、山形県、沖縄県、埼玉県など、本当に日本各地を渡り歩いてきた机なんです。近年は輸送に耐えられずに壊れてしまうんじゃないかと心配していたんですが、今日までほとんど変わりなく使い続けています。本当に頑丈に作られているんだなぁと、しみじみ思います。

浜本工芸が誇る学習机へのこだわり

―そんな50年間の年月にもしっかり耐えられる品質のデスクを作られている、浜本工芸の吉本さんにもお話を伺わせてください。浜本工芸のなかでも、「学習机」の製造は特に歴史が古く、OZONE 6F【浜本工芸 東京ショールーム】にも学習机の特設コーナーが常時設けられていたり、専用のウェブサイトを持っていたりするほどの深いこだわりがあるようでが、それにはどのような理由があるのでしょうか?

吉本さん 戦後すぐに設立された弊社では、戦争からの復興への貢献策の一つとして、「教育に寄与する家具づくり」を目指した経緯がありました。これからの日本を作っていく子どもたち、その勉強のための専用の場所を作ろうと、「学習机」という家具を発想し、学校や役所向けに作っていた片袖机をベースに1950年あたりから開発を進めていました。1958年には「E型机」という弊社の学習机の基本構造を決定づけたモデルの発売を開始しています。これはマイナーチェンジを繰り返しながら約30年間にわたって作り続けられました。

もちろんこの頃からナラ無垢材と国内生産へのこだわりは始まっていて、今もなお、それは変わっていません。先ほどの稲田さんのお話のように、1970年代はスチール製の機能性学習机が全盛の時代でしたが、弊社はその流れに乗ることはなく、ひたすら木製家具の良さを伝えることにこだわり続けてきました。浜本工芸の学習机には、そうしたモチベーションと先駆けとしての誇り、70年以上にわたって積み重ねてきた技術への矜持が込められています。

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1958年販売開始の「E型机」。浜本工芸の学習デスクの基本形となった超ロングセラーモデル。

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1970年代の人気商品「F型学習机シリーズ」。書棚やロッカー、ベッド等とのセット販売により、「子ども部屋」をトータルコーディネートできるタイプの先駆けとなったモデル。

確かな品質と、それを大切に使い続けたからこその50年の歩み

―それでは実際に、50年前の浜本工芸のデスクに触れて、現在の状態を確認してみましょう。

吉本さん 見た目には驚くほど綺麗ですし、何度も引っ越しをされたというわりには、本当に良い状態ですね。この頃の弊社のデスクは、まだ分解式にはなっていませんので、引っ越しの際もこのままの形で何度も運ばれたはずですが、接着剤の経年劣化による多少の隙間はあるものの、木材自体が割れたり歪みがでたりしている箇所はまったくないですね。紫外線などによる表面の退色もあまりありませんし、開け閉めでそれなりに摩耗するはずの引き出しも傷んでいません。取手もすべて現存しています。デスクは窓際に置かれることも多く、オーナーさんがどんなに丁寧に使っても日焼けや湿気で傷んでしまうことが多いんですが、このデスクにはそういう劣化もないですね。本当に大切に使っていただいていたんだと思います。

稲田さん この脚や書棚の装飾の加工が素敵なんです。過剰ではなく、ちょうどいい具合の品の良さで飽きが来なくて。こういう細部を見て、やはりただならぬ品物なんだとなぁと、子どもの自分でも感じたのをとても印象深く覚えています。

吉本さん こういうデザインは今、なかなか無いのでアンティーク品として探している方も多いですよ。今の時代ですと、こういうものをむしろ見たことのない新しいデザインとして感じる方もいますので。これだけ状態がよく、50年分の良い風合いが出ているので、多少の汚れや黒ずみは「味」になるかと思います。

稲田さん どんなに欲しいと言われても、私は売ったりしませんよ(笑)

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デスクを前に50年の風合いを確かめる稲田さん(左)と【浜本工芸 東京ショールーム】館長 吉本さん(右)。

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脚部の美しい造形。吉本:「当時の職人の確かな腕前が現れていますね。こういう細工は現在ではなかなか難しくなってきています。」

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今は机上には置いていないが、別の場所で棚として使っているという専用の書棚。浜本工芸製の証しである社名プレートも健在。このプレートは1970年代から1992年まで使用。その後シール式を経て、現在はレーザー式の焼印になっている。

―大きなメンテナンスなどをしなくとも、このまま使い続けられそうですね。

吉本さん お話を聞いた当初に想定していたよりも、はるかに良い状態でしたね。塗装が剥がれて白っぽくなっているような箇所が多ければ、ご希望であれば再塗装などもあり得るかもしれないと思っていましたが、そんな必要もなさそうです。

稲田さん 思い出しましたが、母が、「この机はナラの木を使っているんだよ」と教えてくれました。高島屋の売り場でちゃんと聞いてきたんでしょうね。小学校に上がる前の話ですから、たぶん、私が人生で初めて覚えた木の名前が、この「ナラ」だったんじゃないかと思います。

吉本さん ナラは堅くて耐久性があるので、船づくりやウイスキーの樽に使われることもあります。もちろん家具づくりにもとても向いているんですが、堅い木であるがゆえに細かな加工が難しいという難点もあり、ナラ材をしっかり加工できるのは、確かな技術を持った家具メーカーの証しとも言えるんです。浜本工芸では昔も今も、このナラの無垢材を使って家具を作ることを一つの大切なこだわりにしているんです。

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稲田さんが中学生時代(1980年代)に使っていた当時のこのデスクの写真。稲田さんのアルバムより。

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アルバムを前に50年間の思い出を話す稲田さん(右)と吉本さん。

稲田さん アルバムを見ていたらこんな写真も出てきました。普通は自分のデスクなんて撮らないはずですが、こんな写真が残っているなんて、やはり相当気に入っていたんだと思います。今はこの自宅でドライフラワーの教室を開いたりしていますが、思えば、私がこんなふうに木や植物が好きになった原点は、この机にあったのかもしれないです。この家の建て方も、今お話ししているこのテーブルなどの他の家具も、やはり同じような「木」の風合いにこだわったものを、いつの間にか自然に選んでいましたし。良いものを大事に使えば長持ちすることを家族に証明して見せてくれたのが、この学習机だったんでしょうね。その影響なのか、大学生の次男はインテリアに興味があるらしく、今度、家具を見に北欧旅行に行くそうです。

そんなふうに私の思い入れが深すぎるので、長男は「傷つけたり壊したりする前に、もう返すから自分で使えば?」なんて言ってますので、近々また、私の元に戻ってくるかもしれません(笑) そうしたらさらに末永く大事に使っていきたいと思います。

―浜本工芸 東京ショールーム 館長 吉本徳太郎さんよりメッセージ

この度は、貴重なお時間を頂戴致しまして、有難うございました。
私自身、約20 年、営業に従事させて頂き、弊社商品をご使用頂いているお客様宅にお伺いして、実際にお話をさせて頂く事もあります。その中で稲田様のように弊社商品への愛情、お使い中の失敗談、心に残るエピソードなどを頂けると、それだけ素敵な商品に関わらせて頂いていると思うと、身に余る光栄です。今後もお客様にご満足頂けるような家具作りに社員一同、努めて参りますので、浜本工芸の家具を末長くご愛顧頂くよう、お願い申し上げます。

※文中敬称略


※2023年8月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。

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