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瀬尾製作所株式会社代表
瀬尾良輛さん

設計・施工のプロフェッショナルを対象に、館内ショールームの製品をお試しいただける『モニター募集』 のアイテムを、8回に分けてご紹介します。
『モニター企画』の詳細はこちら(※募集は終了しています)

7F 「瀬尾製作所展示室 SEO TOKYO SHOWROOM」がモニター募集するのは、和洋を問わず、現代の建物に調和する鎖樋です。瀬尾製作所株式会社の代表、瀬尾良輛さんに製品の特徴を伺いました。


―瀬尾製作所さんが拠点とする富山県高岡市は、銅合金を用いた鋳物製品、いわゆる「高岡銅器」で知られます。江戸時代から続く伝統産業ですね。

高岡は400年前から金属加工を地場産業としてきました。その主力が鋳物です。当社は1935年に創業して、当時は新しかったプレス技術を用い、鋳造ではつくれない製品をつくることを主な業務としていました。鋳物産業を支える技術提供会社という位置づけです。鋳物の花瓶の底板などをつくっていました。

―花瓶の底板、ですか。

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鎖樋「筒」の設置例

鋳造は、最終製品と同じ形状の空洞を設けた原型に、溶かした金属を流し込むのが基本的な製法です。
この製法は上下が抜けていなくて中が袋小路のようになっているものはつくりにくいんですね。今は技術が進化しましたが、昔はつくりにくいために量産が難しかった。そこで、底板だけプレスで別につくって最後に張る、というふうにしていたのです。

高度経済成長期は当社にとっても右肩上がりの時代で、つくれば売れたそうです。金属類はすべて供出させられた戦争が終わり、仏具や花器などを買えるようになり、市湯には旺盛な需要がありました。
また、1ドル360円の時代は海外にも輸出していました。アメリカ向けに、たとえば暖炉の薪入れや薪用トング、鋳物の壁飾りなどをつくっていて、そういうものが倉庫の2階にたくさん眠っています。

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銅製品は経年により徐々に蓑 に変化する

国内の旺盛な需要と海外輸出が落ち着いた1980年代半ば以降、2000年初頭までは、大手建材メーカー向けに銅製の雨樋をつくって供給する、いわゆるOEMを主な業務としていました。銅製の雨樋自体はその前からつくっていて、昔はこれを家に付けることがステイタスになる高級品だったそうです。

けれども1990年代以降は住宅の形やデザインが多様化します。端的に言えば、和風ではなくなっていった。2000年代に入るとそれが加速し、銅製雨樋の需要はなくなってしまいました。当社は大手メーカーのOEMで売り上げを立てていたのに、2000年代後半にはそれができなくなったのです。

このときに、大手の下請けから脱皮して、自分たちで市場のニーズを掴み、開発した製品を最終消費者に売り届けるまでを手がける必要性を痛感しました。それはつまり、自社ブランドを立ち上げるということだろうと考えたわけですが、どういう製品なら市場で闘えるのか、暗中模索の日々が続きました。

―180度反対方向に舵を切ったんですね。

私たちの工場がある高岡は産地として”変わらなければならない”という気運が今もあると感じています。伝統産業の産地のなかではそのような勢いや気持ちのある会社が多い地域ではないでしょうか。

―そうして立ち上げたのが、鎖樋ブランド「SEO RAIN CHAIN」と仏具ブランド「Sotto」のふたつです。

鎖樋を含む雨樋は長年つくっていたものなので、当社の技術や知識が活かせると考えました。また、自然の雨を利用して水の流れを楽しむという鎖樋の考え方が現代によみがえると、建築設計としても面白くて、貢献できるのではないかと思いました。
鎖樋は、屋根から横樋に導かれた雨水が鎖を伝うように排出されるのを目で見て楽しむ、日本に古くからある建材です。数寄屋づくりに用いられたことが始まりで、当初は竹や木でつくった樋から棕櫚(しゅろ)縄を垂らして雨水を伝わらせていました。

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ストレートな円筒状の鎖桶「筒」

日本発祥ということから鎖樋は和風の製品しか市場になく、需要が変わっていくなかで求められなくなっていました。
でも、和風・洋風を問わず使えるものなら需要があるのではないかと思ったのです。その領域はまだ誰も開拓していませんでしたし。

それで、建築家が設計するようなデザイン性の高い家に合わせられるものをつくってみようと、インテリアデザイナーの橋本潤さんにデザインをお顔いして最初にできたのが「筒(とう)」です。

―「筒」は今回のモニター企画で選べる製品のひとつです。実にシンプルなデザインですね。

コッフ状の外側はステンレス製か銅製で、水の流れを整えるステンレス製の中子(なかご)が内部に入っています。雨水がきれいに流れる様子を見せることを最優先に考えたデザインで、主役は水が流れるところ。それを邪魔しないように、1本のステンレスバーで筒をつなげています。

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水が美しく流れる様子はOZONEのショールームでも見られる(メンテナンスなどで水を流していないときもある)

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OZONEのショールームは2019年4月に開設

筒の長さが3種あるのは、水の流れを引き立たせるとともに、水が流れていないときも美しく見せたいという意図からです。OZONE 7Fのショールームでは、水が流れる音もきれいに聞こえることがおわかりいただけると思います。

当社はこの「筒」をプレス技術でつくっています。平板を丸く切り取り、それを金型に載せて押し込む、というつくり方です。コップ状のものは一般的にはパイプを仕入れてつくりますが、それはしていません。

なぜかというと、金属製パイプは金属板を丸めて溶接するときに、溶接ピードと呼ばれる溶接痕ができる。きれいにできているパイプは板が厚く、そのぶん重くなる。鎖樋はたくさん連結して、長さが7~8mほどになることもあるので、薄い板でつくる必要があります。プレスの「絞り」という加工技術なら、1枚の板からコップ状に成形できるので、継目ができません。

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左:丸く切り取った板を、金型を使って立体的なコップ状に仕上げる
中:プレス機・上下の金型の間に板を挟み込み、機械の強い力を使って金型表面に押し付けて、金型と同じ形をつくる
右:何度も絞って最終的な形にする

―板にシワが出ませんか?

シワが出ないようにするのがプレス技術の要なのです。そのためには金型の精度も重要で、私たちは金型もつくっています。

また、たとえば寒い時期は金属が伸びにくいので、少しあたためたり、製法を変えてみたり、製造時の環境に合わせて細かく調整する職人の勘も必要です。絞り加工は1回で最終形ができることはなく、何度も絞ります。徐々に細くしていくから「絞る」と言うのです。「筒」は5回ほど絞っています。当社サイトでは制作風景を動画でご覧いただけます。

―モニター企画では「筒」のほかに、「竹」「玉」「色采(しきさい)」も選べます。このなかで「色采」は磁器製という変わり種ですね。

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左は「竹」、右は「玉」。ステンレス製のシルバーとブラックのほか、「竹」は無塗装の銅もある

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磁器製の「色采」

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鎖桶「色采」の設置例

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錘のラインナップのひとつ、「影」

「竹」「玉」「色采」はプロダクトデザイナーの岡田さんにデザインをお願いしたもので、「色采」が磁器製なのは、岡田さんが岐阜出身だからです。岐阜は古くから陶磁器の産地で、岡田さんは岐阜の淘磁器メーカーともつながりがありました。

磁器は風合いが良いし、住宅の外壁にも磁器製タイルが使われています。土でつくれば、金属とは違う雰囲気のものができるだろうと思いました。 それに焼き物は金属とは製法がまったく異なり、 成形の自由度が高い。この形を金属でつくるのは困難です。

磁器だから、それまでにない形をつくることができました。中子を入れる構造はそのまま、外側だけを変えています。「竹」や「玉」も構造はまったく一緒です。

「色采」は、長さ2 .7mで重さが約5kgあります。「筒」や「竹」は同じ長さで約2kg 。磁器でも一般的な長さなら心配なくお使いいただけます。

重さとともに割れることも磁器の懸念点でしたが、自然発生的に割れることはありません。私は高岡という寒冷地に住んで、この「色采」を使って冬を2回過ごしていますが、特に問題はありません。充分に使用に耐える製品です。

ただ、風が吹くとどうしても揺れる製品ではあるので、錘で下をきちんと固定していただくほうが良いですね。錘も4種類のデザインを揃えています。鎖樋本体の形が大きいものは空気抵抗が大きくなり、揺れる力も強くなるので、大きいものには大きめの錘を選ぶことをお勧めしています。

―鎖樋の設置場所はやはり、住宅の玄関の軒先か、リビングなどの開口部の軒先が多いのでしょうか。

最近は商業施設、特にホテルのエントランスでの採用が増えています。インバウンドの観光客を意識して、和を感じさせたいという意図のようです。また、装飾的な使い方も増えているように感じます。 設計士さんが設計した「コープ共済プラザ」(東京、2016年竣工)では、ファサードに「筒」を720本設置していただきました。

当社が鎖樋をインターネットで売り始めて、最初に買ってくれたのが実はオーストラリアだったんです。それで英語版のサイトを用意して、海外からのお問い合わせにも対応しています。輸出先はアメリカが多いですね。

―鎖樋を設置する際、設計者が気をつけるべき点を教えてください。

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「箇」「竹」「玉」を鎖樋に取り付けたときのイメージ

それほどたくさんの雨水を吐き出せる形にはなっていませんので、屋根の面積と降水量をきちんと計算したうえで設置をご検討いただければと思います。当社サイトの「設計士情報」で、全製品の図面とサイズ、取り付け方法を公開しているほか、排能能力は自動計算フォームをご用意しています。

また、下部は錘でしっかり固定するのがやはりベストです。下部を固定しないと鎖樋がふらつき、雨水の処理という機能を充分に発揮できません。当社の錘ではなくとも、とにかく下部は留めてください。

鎖のように情緒を表現する建材は珍しいでしょう。自由なアイデアで使っていただき、「雨水をランドスケープの一部に」という私たちの想いが実現されることを楽しみにしています。


取材・文/長井 美暁
※2021年4月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。

瀬尾製作所展示室 SEO TOKYO SHOWROOM

館内ショールーム

地場産業として400年前から 金属加工が根付く冨山県高岡市において、1935年の創業から金属を使った様々な製品を作っています。ショールームでは、現代のライフスタイルに合わせた仏異【Sotto】と、現代の建築に合わせた雨樋・鎖樋【SEO RAIN CHAIN] の2つのブランドを紹介しています。