実にいい、暮らしの道具
「折りたためる椅子」

北欧デザイン研究の第一人者であり、生活デザインの提唱者と幅広く知られる島崎 信(しまざき まこと)先生。
その島崎先生が、地に足をつけた暮らしをつくる「実にいい、暮らしの道具」を紹介。様々なテーマのコラム形式でお届けします。

今回のテーマは「折りたためる椅子」
暮らしの道具としての椅子の良さを、2脚の椅子を通してご紹介します。

島崎 信(Makoto Shimazaki)
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武蔵野美術大学名誉教授。
1956年東京藝術大学美術学部卒業。 1959年デンマーク王立芸術アカデミー建築科修了。
王立芸術アカデミーのオーレ・ヴァンシャー教授のもとで研究員として家具デザインを学び、 ハンス・J・ウェグナー、フィン・ユール、ボーエ・モーエンセン、 ポール・ケアホルムらデンマークのデザイナーたちと交流。
北欧デザイン研究の第一人者であり、生活デザインの提唱者として 国内外でインテリア、プロダクトデザインに関わるほか、 家具・インテリアデザインの展覧会やセミナーの企画も多数手掛ける。 主な著書に「デンマーク デザインの国」「美しい椅子1〜5」など。
リビングデザインセンターOZONEでは「暮らしのかたち(旧ノルディックフォルム・にっぽんフォルム)※現在閉店」にて 20年以上わたりアドバイザーとして関わる。

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※イメージです。

― 部屋が"家具の物置"になっていませんか?

日本古来の畳の部屋。1日の時間の中で、時には客室、時には食堂、 また夜には寝室へと様変わりし、 ひとつの部屋が役割を変えながら多目的に使われてきました。 考えてみると、これってとてもすごいことですよね。 そこで使用されるちゃぶ台も布団も、たたんでしまえるものばかりです。
世界各国を見ても、こんなにも実用的で効率のいい部屋の使い方をしているのは日本ぐらいです。

でも今の日本の暮らし方はどうでしょう。 部屋中には家具がたくさん溢れているー。 それも1日のうちで少ししか(もしくは数日に1度しか)使用しないものばかり。 結果、部屋が"家具の物置"になっていませんか?
海外の生活様式を取り入れるのはいいですが、習慣も、気候風土も、住環境も、 海外と日本では違う点が多いです。 だからそのままを取り入れるのではなく、暮らし方を見つめ、 日本人にあったアレンジを加えることが大切です。

今回は、日本人による、日本のための、日本らしい家具、それも折りたたむことができる、 便利で使いやすい椅子を紹介します。

― たためて、自立して、しまえる。...そして移動できる椅子。

例えば夫婦2人の暮らし。 家の中には、ダイニングチェア、ソファ、イージーチェア、etc・・・。 機能と居場所を固定された椅子が幾つもあり、ただでさえ狭い日本の住居をさらに狭くしています。
使うときだけサッと出せて、普段はコンパクトにしまっておける椅子。 自分自身の動きに合わせて一緒に移動して使える椅子。そんな椅子の方が部屋も広く使えて、スマートで利に適った暮らし方だと思いませんか?

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※イメージです。

― 世界に誇る日本の椅子『ニーチェアX』

そこで僕がお薦めしたいのが、1970年から愛され続けているロングセラー『ニーチェアX』です。

海外にも20万脚以上、輸出され続けていて、価格も約4万円と実に良心的。 フローリングの上でも、また柔らかい畳の上でも、表面を傷つけることなく置くことができ、 折りたたんで、部屋のどこへでも自由に持って行ける楽しさもある。
シートは丈夫な帆布(キャンパス地)でできており、人の座る重みでフレームがぐっと沈み、 広がり安定し、包み込まれるような座り心地。

何より50年近いロングセラーであるということは、 多くの人に使用され、その実用性が立証されているといえます。 古くなればシート自体もそっくり交換することができて、 まさに一生使い続けられる椅子です。

『ニーチェアX』公式サイトはこちら

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※イメージです。(Photo:ookura hideki)

― 木製の折りたたみ椅子の名作『たためる椅子』

次にお薦めしたいのが、木製の名作『たためる椅子』。
吉村順三氏が発案し、中村好文氏、丸山芳正氏といった、日本で暮らしを見つめることに長けた 3人の共同ワークにて生まれた椅子です。

シートの革以外はすべて木でできていて、釘や蝶番などの金属は ひとつも使用していない徹底したこだわりぶり。 一脚一脚、心を込めて手加工でつくっているので、大量生産は決してできません。

元々、八ヶ岳高原音楽堂のために作られた椅子で、公共の場でのハードユースでも 問題ないしっかりとしたつくりです。

「この椅子が本当にたためるの?」と驚くぐらい、すばらしい造形と存在感があり、 また座り心地も申し分なし。 快適性・機能性・美しさを兼ね備え、使い勝手の良さもふまえ、 非常に日本らしい椅子と言えます。

『たためる椅子』公式サイト(設計工房MandM)はこちら

― 椅子の良さは座らないと分からない。

両方の椅子に、まずは座ってみてください。椅子の良し悪しは、座らないと分かりません。
「折りたためる椅子」と聞いたとき、多くの人が想像したであろう安っぽいイメージはすっと消え、 上質ですばらしい座り心地を感じてもらえると思います。

必要な時に、必要な場所へー。
暮らしの道具として、「折りたためる椅子」の良さはここにあります。


※2021年5月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。

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