リビングデザインセンターOZONE 6Fの【Organic LED YAMAGATA】は、有機EL照明に特化した日本で唯一のショールーム。
山形大学において世界で初めて白色有機ELの開発に成功したことを契機として、「有機ELといえば山形」を旗印に、山形県の産学官が連携して、OLED(Organic Light Emitting Diode)=有機ELの研究開発や商品化を推し進めています。有機ELを巡る最新事情と山形発の新商品について、公益財団法人山形県産業技術振興機構 理事の山川秀秋さんと、その代表的な商品の企画・デザインに携わる山形市在住の建築家 秋葉圭史さんにお話しを伺いました。

history897_01.jpg

リビングデザインセンターOZONE 6F【Organic LED YAMAGATA】

―「有機ELといえば山形」という誇り

「山形県産業技術振興機構は技術支援の専門機関として、産学官連携の中核を担い、県内企業の研究開発プロジェクトの創出や有機エレクトロニクスをはじめとする先端技術を用いた新産業の集積を促進しています。特に有機ELに関しては、山形大学の研究の成果をもとに、企業における共同研究や事業化の支援を積極的に行っています。有機EL産業の支援に県をあげてここまで取り組んでいる地方自治体は、他にはないと思っています。」(山川)

山形大学の城戸淳二教授による世界で初めての白色有機EL開発(1993)、東北パイオニア株式会社米沢工場でのパッシブ駆動方式有機ELディスプレイの世界初の量産(1997)、世界初の照明用有機ELパネル専業会社「Lumiotec株式会社」の設立(米沢・2008)など、有機ELに関しては確かに初めて尽くし。そうした歴史・地盤・機運を持った山形県は、有機EL産業の集積地としてはまさに天啓の地といえるでしょう。しかし、そもそも有機ELとはどのようなものなのか。そして他の光源、特に類似領域である「LED」とはどう違うのでしょうか?

history897_02.jpg

左:次世代展示ケース(東京国立博物館/株式会社岡村製作所)
右:パウダーコーナーミラー用照明(東北中央自動車道パーキングエリア/オーガニックライティング株式会社)

「発光ダイオード (LED)の中でも、炭素を含む化合物=有機化合物から成る発光素子によって構成されているものを、有機ELと呼びます。特徴としては、通常のLEDに比べ紫外線を含まないので人や環境にやさしく、自然光に近い「演色性」に富んだ光が得られます。また発光体も薄く、軽く、発熱が少なく、面で発光するためグレア(不快感や物の見えづらさを伴うまぶしさ)が少なく、広い面積から均一の柔らかい光を放つことができます。曲げられる素材を基盤にすれば曲面や折り畳み式の製品も実現可能であり、“次世代のあかり”として注目されています。」(山川)

これら有機ELの光の特性を活かし、美術品展示ケース用、パウダーコーナーミラー用、食品冷蔵ショーケース用、看護師が携帯するナースライトなどの専用照明器具がすでに実用化されています。また、日本古来の行灯(あんどん)や提灯(ちょうちん)のような朧げな灯りをともす光源としても有機ELは打って付け。照明器具デザインのあらたな可能性を拡げる光として、期待されています。

history897_03.jpg

左:冷蔵ショーケース(米澤紀伊國屋/株式会社タカハタ電子)
右:YUKI ANDON(株式会社タカハタ電子)

―新作ペンダントライト「Expand Tin」

こうした潮流の只中にある山形において、有機ELを用いたプロダクトのデザイン・設計を行っている地元の建築家、秋葉圭史さん。そもそも、有機ELとの出会いはどのようなものだったのでしょうか。

「山形大学での白色有機ELの発明に関する新聞記事を読んだことがきっかけです。面で発光する有機EL照明の登場によって、これからは照明の概念そのものが変わっていくはず……と、大いにインスパイアされました。その後、有機EL照明パネルを用いた照明効果や利用場面の可能性について県の担当部署からヒアリングを受けたり、2006年に有機EL照明デザインコンペに応募したのが始まりですね。」(秋葉)

現在、【Organic LED YAMAGATA】には、秋葉さんが主宰する秋葉アトリエがデザインした新作として、ペンダントライト「Expand Tin」が展示されています。切り込みを入れた柔らかな錫(すず)板を手で自由に引き延ばし、自分だけの好みの形と光を楽しめるというもの。錫のメッシュから漏れ出る光が、モアレや反射光などの様々な表情を見せてくれます。それもメッシュ状のシェードの中で巧みに存在感を消すことができる薄型・丸形の有機EL発光パネルがあればこそ。

history897_04.jpg

丸形有機ELパネルを使った新作ペンダントライト「Expand Tin」(秋葉アトリエ)

「現在、有機EL照明パネルの形状は製造しやすさなどから角形がほとんどですが、角形を設えるには天井や壁とぴったり平行に施工する必要があるので、制約も手間も多くなってしまいます。その点、丸形は向きを気にせず設置でき、均一に広がる明りを確保できます。またペンダントライトだけでなく、ダウンライトやシーリングライトでも容易に利用でき、照明器具としての可能性をさらに広げるものだと考えています。今後は、有機ELならではの癒し効果を発揮するヒーリングライトなども模索していきたいと思っています。照明器具単体としてではなく、空間やシーンを邪魔しない“さりげない灯り”。そこに暮らす人にどう機能していくのかを大事にしたデザインに挑戦していきたいですね。」(秋葉)

その他、人工大理石の天板の中に有機EL照明パネルを内蔵し、ほんのりと天板に光が浮き上がるライトテーブルや、柔らかな優しい光で故人を偲ぶためのブックタイプの手元供養など、【Organic LED YAMAGATA】ショールームには、秋葉アトリエをはじめとする建築家やデザイナーが提案する有機ELプロダクトが展示されています。

―より広い「有機エレクトロニクス」という領域へ

プロダクトへの展開性の高さや、新たなアイデアが生まれる可能性が魅力の有機EL製品。それでは、山形県が狙う次の段階の取り組みとは、一体どのようなものなのでしょうか。

「就寝前に有機ELの光を照射した場合に深い睡眠が得られるとの学術機関の研究成果に基づき、2021年度、山形大学と県内企業が共同して寝室用の有機EL照明スタンドの開発を行いました。有機ELについては、産学官が連携して、その光の特徴を活かし、健康で快適な生活空間を創造することを目指した製品開発を進めていきたいと考えています。」(山川)

history897_05.jpg

実証工房「スマート未来ハウス」

「発光技術としての有機EL照明分野からはじまったこの研究は、より広い『有機エレクトロニクス』という概念での取り組みに進化・拡大しています。山形大学には有機材料の基礎研究を行う『有機エレクトロニクス研究センター』や、実用研究を産学連携で推進する『有機エレクトロニクスイノベーションセンター』が整備され、有機トランジスタ、有機太陽電池、蓄電デバイスといった、次の技術的目標の産業化に向けた取り組みが進められています。また、実証工房としての「スマート未来ハウス」も建設されていて、有機エレクトロニクスの研究成果を社会実装段階に進め、20年後の暮らし方、働き方を考え、提案するための実証研究が行われています。有機エレクトロニクスは、山形が世界に誇る技術分野の一つであり、山形こそがその一大拠点となりうると考えています。」(山川)

太陽光を吸収して発電する軽く、薄く、透明な「有機太陽電池」や、次世代の電池と目される「半固体電池」などの蓄電デバイスの開発も、有機ELと同じく有機エレクトロニクス分野の中に含まれるということです。有機EL分野でこれまでにも数々の「世界初」を築いてきた山形県の本気。これから先も、何度でも世界を驚かせてほしいものです。

―メーカーよりメッセージ

ショールームには、有機エレクトロニクスに関する最新の研究成果やデザイン性に優れた有機EL照明製品を展示しています。来場される方には、目に優しいやわらかな光と高い演色性、薄型有機太陽電池の可能性などを体感していただきたいと思います。令和4年度からは山形のブランドイメージにつながる「上質ないいもの」を生活シーンにあわせて展示し、有機ELの質の高い灯りと快適・健康で心豊かな暮らしの提案を行っています。ぜひ足をお運びください。

※文中敬称略


※2022年7月時点の情報です。最新の情報とは異なる場合がございます。

Organic LED YAMAGATA

館内ショールーム

Organic LED(有機EL)は、人や環境にやさしく、演色性が高い“次世代のあかり”として、注目を集めている光源です。ここでは世界で初めて白色有機ELの開発に成功した山形大学をはじめ、山形県内の産学官で研究開発を進めている「Organic LED」の「あかり」の特長を体感いただけます。各種照明機器の提案、生活向上に資する用途開発の取組みを紹介し、可能性が広がる情報発信と交流の場を目指します。


※本ショールームは、2024年2月29日(木)をもちまして、クローズとなりました。