スタイリングで出会いを作り、
モノと⼈をつなげる

作原 ⽂⼦
インテリアスタイリスト

Profile

岩立通子氏のもとでアシスタントを経験し、1996年に独立。
雑誌、カタログ、TV-CM、企業・ブランドのエキシビション、映画美術などのスタイリング、新規事業のディレクションなどを手がけ、東京を拠点に活動。

⼈とモノが出会うスタイリング

気に⼊った器やファブリックを使うことで毎⽇が豊かになる、笑顔になるということを教えてくれたのは、⺟でした。気に入った器を頑張って購入しうれしそうに使っていたり、庭に咲いた⼀輪の花をさりげなく⽣けたり、刺し子を施した布小物を作ったりする人で。母の誕生日に私が部屋を飾ることで、笑顔になる母を見るのが好きでした。

こうした⺟の影響は⼤きく、「インテリアには⼈を笑顔にする⼒がある、可能性がある」と感じて、岩⽴通⼦さんの⾨をたたいたわけです。彼⼥は当時、ファッション誌やインテリア誌で名前を⾒ない⽇はないというほどの活躍ぶりで、スタイリストの草分けといえる⼈。猛アプローチしました。

インテリアの可能性、と言いましたが、そのうちのひとつは、スタイリングで空間を作ることで、過ごす人が楽しくなること。もうひとつは「出会い」です。岩⽴さんのアシスタント時代、「スタイリストはひとりではできない。出会いを⼤切にする」ことを学びました。それは、⼈との出会いだけでなく、⼈とモノ、モノとモノの出会いでもあります。

例えば、インテリアショップに椅⼦を⾒に来たら、サイドテーブルに置いあったマグカップがすごくかわいくて気になる、というような経験、ありますよね。同じマグカップでも、⾷器売り場にあったら⽬にとまらなかったかもしれない。スタイリングによって、まったく違うジャンルのモノが隣り合うことで、新たな魅力が生まれたり、まだあまり知られていない作家さんの器が、その作品を見た誰かの心をつかんだり。⼈と⼈の交流から新しいプロジェクトが生まれることもあります。

「 出会いの空間」のために私が⼤切にしているのは、自分の経験から得た軸に落とし込むこと、引き出しをたくさん持つこと。クライアントがいる仕事の場合は、先⽅が⼤事にしていることをベースに、⾊の合わせ⽅、⾼さ・左右のバランスの取り⽅など、経験から得た知識を加味して⾃分のスタイリングにしていきます。たまに「100円と100万円が同時に存在するスタイリングだね」と⾔われるのですが、100円でもいいものはいい! モノの魅⼒を感じられるスタイリングを⼼がけています。

「スタイリングの引き出し」は、岩⽴さんの教えを受け継いでいます。例えばテーブル上の範囲ほどのビジュアルを必要とされた場合でも、その延⻑にある世界観も可能な限り作るようにしています。フォトグラファーが狙う位置と編集者がいいなと思う視点は常に同じとは限らないので、背景に奥⾏きがあればどこからでも切り取れるようになるからです。スタイリングの引き出しがあれば、目指す空間に応じてアイデアを取り出し、さまざまな広がりを作ることができるはずです。

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ザ・コンランショップには、岩⽴通⼦⽒のアシスタント時代から通っている。同店のインテリアコーディネートを⾒ることは刺激的で、作原⽒にとって「⽬的を持って訪れるだけでなく、滞在してその空間を楽しむ場所」とのこと

OZONEは特別な場所

リビングデザインセンターOZONE( 以下OZONE)は、まさに「出会い」の宝庫。アシスタント時代、「あのコンランショップが⽇本に!」とドキドキしながら訪れたのを覚えています。私にとってOZONEは特別な場所で、ここに来る道のりも含めて滞在する時間を楽しんでいます。

当時からいろいろな仕事でかかわらせていただいて、⼈脈も広がりました。独⽴してからもスタイリングでコンラショップの商品を利⽤したり、ハンス・J・ウェグナーとカール・ハンセン&サンのイベントでスタイリングをさせていただいたり。アシスタントのときには、OZONEが主催するフリーマーケットにも参加しました。

特に⼼に残っているのは、OZONEがオープンして1年くらいのときに、岩⽴さんのお⼿伝いで参加したイベント「⼟と暮らす」です。信楽焼ができる過程や作家さんの作品を展⽰。「⾒て触れる」展⽰会は珍しかったし、海外の洗練されたインテリアや暮らしに、まだまだ憧れが強かった時代に、⽇本のプロダクトの良さに⽬を向けた斬新な企画でした。

私は、人とモノが出会い新たな繋がりや表現を生み出していくことをテーマにしたコミュニティ「Mountain Morning」を主宰しています。昨年から取り組んでいることのひとつに、愛媛県西予市のしめ縄職人の方のプロジェクトがあります。わずかな時間ではありますが、田植えや稲刈りに参加し、実際の空気を体験してきました。「⼟と暮らす」の展⽰もそうですが、インターネットですぐに情報が得られる時代だからこそ、実際に⾒て触って確かめることは⼤切です。モノの背景にある物語も含めて、良さを丁寧に伝えたいですね。⽇本には、すばらしいデザインなのに知られないモノもたくさんあります。出会いの場を作ってつなげていきたいですね。

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世界各国のプロダクト、インテリア、テキスタイルの最新トレンドが集まる⾒本市「ミラノサローネ」。2024年のエキシビジョンでは、ミラノの空気感を⽣かし、made in Japanのカリモク家具のブランド、MASをスタイリングした
撮影:⼤⾕宗平( ナカサアンドバートナーズ)

新しい化学反応を起こす場所に

リビングデザインにはふたつの視点があると思います。ひとつは、暮らしの中のデザイン。暮らしとデザインが合わさって、⼼地いい⽣活空間ができ上がる。私たちスタイリストは、スタイリングを通してその提案をしているんだと思います。

もうひとつが、社会⽣活のデザイン。姉がデンマークに住んでいたので北欧に⾜を運ぶ機会が多く、現地の公共施設など、素敵な建築デザインを⽬にしてきました。壁紙がカラフルだったり、絵画や写真などを積極的に飾っている。アートが根づいているなと、感⼼しました。日本は、医療現場や公共施設に、インテリアデザインを取り入れる取り組みがまだまだ少なく、課題がたくさんある印象です。私たちスタイリストをはじめ、デザインにかかわる⼈たちが協⼒すれば、莫⼤なお⾦をかけずにできることや、より暮らしやすい空間になることもあると思います。

私はどちらのリビングデザインにおいても、出会いやつながりのお⼿伝いをしていきたいですね。それが⼤きな化学反応を起こすかもしれないし、その触媒になれたらうれしいです。

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