イベント・セミナーレビュー

OZONE×TOTO出版
『中村好文 集いの建築、円いの空間』発行記念トークセミナー
中村好文・皆川明 ― 集いと円いを語る ―

中村好文・皆川明 集いと円いを語る
建築家中村好文氏の著書『中村好文 集いの建築 円いの空間』(TOTO出版)の発刊記念トークセミナー『中村好文・皆川明 —集いと円いを語るー』が、2017年10月10日(火)に、リビングデザインセンターOZONE 3F パークタワーホールにて開催された。住宅設計をはじめ、家具デザインや文筆活動と活躍する中村氏が対談者として指名したのが、ファッションブランド『ミナ ペルホネン』を展開する皆川明氏。受付開始直後から、たちまち募集定員500人が埋まるという盛況ぶりで、当日の来場者は建築関係者に限らず、両氏のファンである一般の女性客も多く見受けられた。開場前から多くの来場者が列をなし、開場と共に最前列を確保しようと足早にホールに駆け込む姿が見られるなど、中村氏と皆川氏の人気の高さが見て取れた。来場客の期待感と熱気に包まれる中、両氏が登壇すると、万雷の拍手で迎えられセミナーが幕を開けた。

取材・文/阿部博子
撮影/大倉英揮

第1部

今回中村氏が上梓した著書には、皆川氏がクライアントとして設計を依頼した物件も掲載されている。冒頭、皆川氏が「円い(まどい)」という聞きなれない言葉の意味を中村氏に問いかけると、「遠き山に日は落ちて」の歌の一節「風はすずしこの夕べ いざや楽しきまどいせん」に由来すると解説。“円い”とは、集いよりも人が丸く車座になって片寄合う親密な状態を指していると話す。中村氏は、著書のタイトルにもなっている「集いと円い」をいう言葉を象徴する写真をスライドで投影しながら、それぞれの空間について解説をしていった。ノーマン・ロックウェルのクリスマスのシーンを描いた作品に始まり、中村氏と友人のホームパーティの様子など、空間に人が集まり語り合う光景が次々と映し出された。中村氏は、円いにとって大切なのが中心となるべきものの存在、とりわけ、キャンドルの火や暖炉など、「裸の火は円いの中心になりやすい。だから自分が設計する住宅には可能な限り暖炉を入れたいのだ」と語った。太古の昔、竪穴式住居では真ん中に火を焚いていてそこに人が集まった。そんな記憶が我々のDNAに染み付いていているからこそ、火を見てると落ち着くのではないかと考察しているという。
次に、皆川氏から依頼された「南三陸町ミシン工房」「休寛荘」を紹介し、これらの建物が出来るプロセスも詳しく語られた。ミナ ペルホネンの保養所「休寛荘」は、中村氏の師・吉村順三氏が50年前に設計した別荘を皆川氏が購入し、中村氏がリノベーションした物件だ。大きな暖炉、居心地の良い図書室、屋外に張り出した2F書見台といったアイデアは、皆川氏との対話によって生まれたもの。こうした対話によって、新しい発想が生まれるのが設計の面白さだと中村氏。皆川氏も同調し、服づくりもプロセスの中から生まれることがあると続けた。さらにアイデアを操ることを乗馬に例えて、いきなりプラン通りにつくるのではなく、馬を手綱で操るように行き先を感じながら、自分と一体になって着地点を目指す感覚があると語る。アイデアとは単純な情報ではなく生き物のような存在でもあり、パートナー関係だととらえる皆川氏の言葉に中村氏も大きく頷く。馬と乗り手の場合も、アイデアと作り手の場合も、良い関係性を築くためには、対話やプロセスを大切にすることが大切だと語り、第1部を終えた。

第2部

セミナーの第2部は来場者からの質問に答える形で両氏のトークが展開された。最初の質問は「今までトライしたことがないことに挑戦する機会を得るために、どうやって自分を磨いたらいいか?」というもの。この問いに対し、皆川氏は螺旋階段を例に、視点を変えながらゆっくり1段1段登っていくしかない。目的に直線的に向かいすぎるとプロセスがおざなりになってしまう。螺旋階段を登るうちに、枝分かれする階段を見つけて、別の可能性を広げられるかもしれない、と回答。中村氏も続けて、螺旋階段のように1本の軸を大切にしながら360°を見渡せる視点を持つことが大切だと語った。
次に「生活をすることは泥臭いこともある。住まいを設計するにあたり、意識することはあるか?」という質問が読み上げられた。中村氏は住宅設計コンペの審査員を務めている経験から、写真審査において写真は美しくても、生活が見えないと感じる住宅には気持ちが入らないと話し、泥臭いことを美しく解決することに設計の意味があると話す。日々の生活は下世話でガサガサしている。それを美しく快適にすることが住宅設計の醍醐味であり、面白いところ。これを生きがいと思えないと住宅設計をやる意味がないと言い切る。
皆川氏は、住宅とは巣のようなもの。広いことや豪華なインテリアであることが必ずしも自分の巣にあっているか考えるべき。できるだけコンパクトで自分たちの生きやすい巣になっているか、鳥たちを見習いたいと思う。必要な分量を知ることが大事なのではないかと回答した。
「クライアントの予算と希望に無理が生じた場合の対処法は?」という質問に皆川氏は、自分はこの服とどれくらい付き合いたいか、というところに価値判断をおいて欲しいと考える。洋服の場合、今シーズンだけ着るのか、はたまた10年間着たいのか。その洋服に対してどれくらいの対価が適正なのかと、時間と共に考えて欲しいと話す。建築は正に長い時間の経過も考えて価値判断をすべき対象だと指摘。これを受けて中村氏は、住宅設計に加えて、特注のテーブルを製作することがあるが、既製品に比べて高額になるものの、良質の無垢材を用いて一流の職人がつくることで50年以上使えるクオリティを担保できれば決して高くないと話す。手すりも全て木で作り、住み手の人達を思って握り心地まで考えている。だがそういう風に作ると既製品の手すりの何倍もコストがかかってしまう。けれども、その人達が毎日手触りとして記憶に残る。その宝物のような記憶が残るのならば安いと思えないか、と中村氏はクライアントに話すこともあると語ると、来場者の建築設計や施工関係者は熱心に耳を傾けていた。
最後に中村氏が読み上げたのが「さまざまなアイデアを生み出すために普段から心がけていることはありますか?」という質問。これに対し皆川氏は、この質問こそが答えであり、普段から心がけることが大事だと話す。些細なことも特別な大きな体験も並列に見ることを大切にしている。つまり、特別なことをやるために準備をするのではなく、普段の生活を丁寧に見つめ、日常の中から何かを感じとりたい、そのためには観察することを大事にしていると語った。この回答に感嘆した中村氏は、自然体でいること。自分を自分以上に大きく見せることなく等身大でいることが大切だと続けた。
セミナーは、中村氏のユーモア溢れるトーク術に時折会場が笑いに包まれた。7年来の親交がある両氏は一緒に旅行することもあり、北欧の列車に乗った時に、擦り切れた座席に一目散に駆け寄って生地の観察をしていたという皆川氏のエピソードを披露。こうした観察は中村氏も大切にしている部分だと語り、両氏のものづくりに対する探究心と真摯な姿勢が伝わってきた。今回のトークセミナーは、和やかな雰囲気の中で行われ、中村氏と皆川氏、そして来場者による集いと円いの空間が形成されているようだった。

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