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イベント・セミナーレポート

カワイイパラダイム2 建築の変様とカワイイパラダイムの解明

「カワイイ」の浸食から始まる、建築と社会の新たな関係

2009年2月10日、「カワイイパラダイム(2007年12月開催)」の続編となるシンポジウム「カワイイパラダイム2」が行われた。多分野のクリエイターや企業が出演した前回の開催により得られた「カワイイパラダイム」への包括的な理解を踏まえ、今回は建築、インテリアの分野に焦点を絞って企画された。プログラムは、まず前回と同じく真壁智治、柏木博、五十嵐太郎の三氏による「カワイイ」サーベイに始まり、5人の出演者による「カワイイ」プレゼンテーション、これらの内容について議論する「カワイイ」トークセッションの三部構成。主観的で素人的、少女趣味的という既存のイメージから膨張し、今やプロフェッショナルの現場でも用いられるようになった形容詞「カワイイ」。建築デザインの世界に今なぜ、この一言が介入するようになったのか。建築と「カワイイ」との関係性を多角的に検証することから、現代の建築デザインが向かおうとしている新たな方向を展望する。


取材・文/田中元子(mosaki) http://www.mosaki.com/
撮影/栗原論(第2部除く)

第1部 「カワイイ」サーベイ

■真壁智治(プロジェクトプランナー)
「カワイイパラダイムとカワイイ×モダンの領域について」


「カワイイパラダイム」の企画発案者である真壁智治氏が前回同様、イベントの趣旨を説明するとともに「カワイイ」サーベイのトップバッターとして登場。前半では「カワイイパラダイム」と題し、江戸時代に賀茂真淵が古歌の歌風を「ますらおぶり(男らしい歌。万葉集の歌風を指す)」「たおやめぶり(女らしい歌。万葉集以降を指す)」と分類したことなどから、「カワイイ」という感覚は古くからある日本独特の感性であることを検証。さらに社会の母系化とともに意味が拡張、感覚型のコミュニケーションが発生し、結果的にデザインにおいても性差もなくなっていることを指摘した。また「カワイイ」とは本人が自覚する自分効果、他者との関係に影響を与える他者効果など、機能より心に反応する効果を生むものであり、それらが共振することにより社会的効果をもたらす可能性があるとした。

さらに後半では「カワイイ」という不確かなものをどう表すか、の研究として「カワイイ感性域」と「モダン感性域」との対照について発表。「サイズ感×完成度」「質感×強度」など13パターンのマトリックスを示し、それぞれのベクトル上でモダンと対照させることで、「カワイイ」とは何者かを明らかにすることが試みられた。

■柏木博(デザイン評論家)
「カワイイはモダニズムを救う?」


例えば、ミースのバルセロナパビリオンは「カワイイ」とは言い難い。一方、完成度が未熟であったり、丸みを帯びた小さいものが「カワイイ」と思われがちだが、ではモダニズムのデザインは総じて「カワイくない」だろうか。ウェグナーのYチェアーは、ヘニングセンのPHランプはどうだろうか? …さまざまなプロダクトの写真を映しながら、それらが「カワイイ」かそうでないかを考察。「カワイイ」とは固定的な概念ではなく、解釈によって揺れ動くものであることを再認識すると同時に、モダニズムと一括りにされてしまう過去の名作たちにも、実はさまざまな解釈の可能性が秘められていることを示唆。モダニズムに対して「カワイイ」を基準とした見地から改めて検証することにより、これまでの固定的な解釈からモダニズムを救済してくれる可能性があるのではないか、と話す。
さらに陶器の修繕方法である楔止め、焼き継ぎを写真とともに紹介。いずれも修繕した形跡が残るもので、特に楔止めはステープラーのように鎹で破片をとめる大胆で不完全な方法。しかし日本人は元々壊れたもの=はかなく弱いものを繕い、その不完全な姿を愛でていたことを解説。他国では見られない独特の感覚を、慣習や伝統技術に見いだし検証することは、現代の「カワイイ」を探る上でも大きな手掛りとなりそうだ。

■五十嵐太郎(建築史・建築批評家)
「カワイイ」と「かわいい」


「かわいい建築2」と題したスライドの中で、3つのテーマを展開した。まず「カワイイの方法論」では、西沢立衛氏の「森山邸」ではボリュームの分割、藤森照信氏の「高杉庵」では家型をひとつのキャラと捉えられる、というように各々の方法論から「カワイイ」と感じさせる結果が導かれていることを解説。竣工当初はかわいくなかったはずなのに、時の経過によって愛でられるようになった建築もある(同潤会青山アパートなど)ことから、「カワイイ」とはカタチだけでなく、他の要素から呼び起こされる感覚であると話した。
次に「ジェンダー」を取りあげ、フェミニン、繊細、幼児性といった古典的な「カワイイ」から、建築少女のウェブサイトや四方田犬彦氏の「『かわいい』論」、大塚英志氏の「『彼女たち』の連合赤軍」といった著書などから多角的な「カワイイ」を抽出、デザインだけでなく人文学的な見地からの考察を紹介した。
最後に五十嵐氏は、「かわいい」と「カワイイ」ふたつの表記の違いについて問題提起した。一般的に、商業性や男性目線からの表現として、名詞的に「カワイイ」とカタカナ表記が用いられるため、この言葉にまつわる現象まで含めた考察には、より幅広く意味を捉えられるひらがな表記がふさわしいのではないか、という問いかけだ。これに対し真壁氏は「キッチュなものやオタク性まではここでは扱わず、あくまでモダンデザインの新たな潮流として、あるいは建築の社会性というテーマの元で議論するため」のカタカナ表記であるとし、壇上でも「カワイイ」と「かわいい」をめぐる議論が交わされた。

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